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小鳥のさえずり学習には集中的な練習と休憩が重要である

行動神経学系の和多和宏准教授の研究室から小鳥のさえずり学習に関する興味深い研究成果が発表されました。この成果は北海道大学のプレスリリースでも紹介されています。以下,和多先生による解説です。

 

ヒトの言語獲得や小鳥の歌学習のような発声パターンの学習では,学ぶべき音を聞くだけでなく,自ら発声してそれを繰り返す発声練習が大事です。しかし,この発声練習が個体発達の過程で一日のなかでどれくらいの頻度・長さで自発的になされているのか,また一日のなかの発声練習の頻度が発声学習の発達そのものにどのような影響を与えているのかも分かっていませんでした。

小鳥として親しまれている鳴禽類ソングバードは,発声学習の動物モデルとして行動神経科学研究で長く用いられてきました。今回の研究では,ソングバードの一種キンカチョウのヒナが歌いはじめてから最終的に歌パターンを完成するまでの3ヶ月以上の期間のすべての発声行動を24時間自動録音しました。

小鳥の成鳥は一日中だらだらと歌をうたう傾向があったことに対して,ヒナは一日のなかで短時間に集中して発声練習を行っていました。ヒナと成鳥では一日のなかの「さえずり」の回数や頻度が大きく違っていたのです。小鳥のさえずり歌はヒナのときに学習感受性期があります。そのため,成鳥とヒナのさえずり行動の違いが歌学習に重要な意味があるのではないかと考えました。実際,歌学習中のヒナの歌パターンの解析をしてみたところ,ヒナは発声練習中にはその日の朝に歌いはじめたときの歌とは異なるような歌パターンを発声しますが,休憩すると朝のはじめの歌に少し戻るような歌い方をします。この歌パターンの変動を繰り返しながら,一日のなかで少しずつ歌パターンの学習が進んでいることが分かりました。つまり,ヒナは発声練習と休憩を繰り返すことで,一日のなかで歌が上手くなったり下手(もとのパターン)になったりしながら,学ぶべきお手本の歌に似せた歌パターンを発声できるようになることを意味します。また,一日のなかの発声練習を人為的に減らしたり,聴覚入力がない状態にすると,そのような歌パターンの変動が見られなくなりました。聴覚入力がない小鳥は下手な歌(お手本の歌とは違う歌)しかさえずれません。今回の研究によって,小鳥のヒナの自発的な発声練習の回数・タイミング・頻度が一日での歌パターンの学習変化量に影響を与えていることが明らかになりました。

今回の研究によって,小鳥のヒナは発声練習の回数・タイミング・頻度を誰に教わることなしに,自ら歌学習発達に適したように行動していることが分かってきました。ヒトを含めた多くの動物が,いつ,何を,どのように学ぶのか,そのための練習時間や頻度を自発的に制御し,適切に学習発達が進むような自己訓練・自己教育が実行できるように学習行動を生得的にプログラムされているのかもしれません。

 

Zf family

 

Eri Ohgushi, Chihiro Mori & Kazuhiro Wada (2015) Diurnal oscillation of vocal development associated with clustered singing by juvenile songbirds. The Journal of Experimental Biology  doi: 10.1242/​jeb.115105