内海 俊介教授/Utsumi, Shunsuke
自然界には、同じ種であっても個体の間にたくさんの変異variationが存在します。地域による変異がありますし、遺伝的な変異や環境によって生じる変異もあります。このような種内変異は生物多様性を構成する重要な要素です。しかし、生態系に多種が共存するとともにこれほどまでに種内変異が普遍的に存在するのはなぜなのでしょうか?生態系のダイナミクスやパターンを決定する上で、このような種内変異のはたす役割は何でしょうか?
多種共存をはじめとした生態系のパターンやプロセスを説明する上で、このような種内変異の存在はこれまでほとんどかえりみられてきませんでした。そのため、これらの問いについていまだ多くのことが未知です。私たちは、種内変異を切り口とすることによって、遺伝子から生態系までの丸ごとを理解することを目指しています。特に、進化と生態(個体群・群集・生態系)の間にあるフィードバック過程を研究テーマとして重視しています。
研究対象として、陸域の野生植物(草本・木本)を中心に植物-昆虫-微生物の間の生物間相互作用をあつかい、それを紐解いていきます。フィールドワークによるアプローチも、ラボにおけるゲノミクス等の分子実験によるアプローチもどちらも大事に研究を展開しています。
ハンノキの根と、共生する根粒細菌フランキアと菌根菌
都市への適応進化をしているシロツメクサ
外来生物も侵入地で迅速な適応進化をしている。写真はセイタカアワダチソウに訪花するセイヨウオオマルハナバチ。
昔、学部生のころ、学生寮の屋上から街や緑をよく眺めていました。そうしたある夕暮れ時、木々の葉一枚一枚がまさに一枚一枚それぞれとして急に光輝いて見えたのを今も覚えています。何かいろいろな思考がつながった瞬間でした。植物を中心とした生物間相互作用や、システムと個の相互作用という今に至る研究テーマも、つながっているように思います。大学教育の価値は、自分自身で考え抜くマインドを鍛えることにあります。でも考え続けることは易しいことではありませんよね。仲間とのディスカッション、体験の共有、そして、観察・探求・感動。こうした一つ一つが考え抜く糧となり、足がかりとなり、エネルギーになるはずです。研究室では、フィールドワーク、ゼミ、学会活動などを通して、皆さんの成長の手助けをしていきたいと思っています。
参考文献
門脇浩明・山道真人・内海俊介(2023)ミッテルバッハ・マギル群集生態学(丸善出版)
内海俊介(2019)「進化から群集へ、群集から進化へ-階層間相互作用の意義」(門脇・立木編「遺伝子・多様性・循環の科学:生態学の領域融合へ」) pp.17-51
内海俊介・中村誠宏(2017) 動物-植物相互作用調査法(共立出版)
Furusawa, J., Makoto, K., Utsumi, S. (2023) A large-scale field experiment of artificially caused landslides with replications revealed the response of the ground-dwelling beetle community to landslides. Ecology and Evolution 13, e9939, https://doi.org/10.1002/ece3.9939
Kagiya, S., Yasugi, M. Kudoh, H., Nagano, A-J., Utsumi, S. (2018) Does genomic variation in a foundation species predict arthropod community structure in a riparian forest? Molecular Ecology 27: 1284-1295, https://doi.org/10.1111/mec.14515