研究トピックス

卵は受精後に翻訳の波を生み出す生命現象を進行させる新たな仕組みを解明

 生殖発生生物学系の小谷友也准教授、大学院生命科学院博士課程(当時)の佐藤圭祐さん、Fierro Ludivine さん、修士課程(当時)杉西杏友さん、博士課程の眞田崇弘さんたちは、動物の受精卵が連続した翻訳の波を生み出すことを発見し、生物が秩序だってタンパク質を合成する新たな仕組みを解明しました。

 動物の卵は、卵巣で長期間生存する長寿の細胞です。しかし、排卵され精子と受精すると、短時間のうちに内部の分子を活性化し、体づくりを進行させなければいけません。特に、卵に蓄えられた不活性な(タンパク質を合成しない)メッセンジャーRNA(mRNA)は、受精後に決まったタイミングで活性化し、タンパク質を合成する必要があります。しかし、不活性なmRNAがどのように決まった時期に活性化し発生を進行させるのか、ほとんど分かっていませんでした。研究グループは、動物の卵が持つ不活性なmRNAの一部が、受精後の1時間で活性化することを発見しました。この第一の波で合成されるEwsr1bタンパク質は次の複数のmRNAを活性化し、第二の翻訳の波を形成しました。第二の波で合成されるタンパク質は、受精後に開始される転写と発生の様々な現象の進行に重要なことが示されました。興味深いことに、ewsr1b mRNAは極めて短い3’非翻訳領域を持ち、このmRNAに結合するHuRタンパク質の分解が第一の波の形成に必須でした。ewsr1b mRNAは長い3’非翻訳領域を持つものも存在し、このmRNAは第二の波で翻訳されました。さらに、第二の波で合成されたEwsr1bタンパク質は細胞質ではなく核に集積しました。本研究によって、受精卵が発生を進行するための極めて重要な原理を数多く見出すことに成功しました。

 なお、本研究成果は、2026年6月13日(土)公開のCell Reports誌にオンライン掲載されました。

論文名 Alternative 3’ UTRs and RNA-binding proteins Ewsr1b, HuR, and Syncrip organize sequential waves of translation to drive embryonic development (選択的3’UTRとRNA結合タンパク質、Ewsr1bとHuR、Syncripは胚発生を進行させるために翻訳の連続した波を形成する)
著者名 佐藤圭祐1、Fierro Ludivine1、杉西杏友1、眞田崇弘1、小谷友也1,21北海道大学大学院生命科学院、2北海道大学大学院理学研究院)
雑誌名 Cell Reports(生命科学分野の総合誌)
DOI 10.1016/j.celrep.2026.117557

受精後の翻訳の波。卵は多くの不活性なmRNAを持つ(受精卵)。受精後1時間で複数のmRNAが活性化し、この第一の波で合成されたEwsr1bタンパク質は、第二の波の形成を促進する。合成されたタンパク質は、発生の様々な現象を進行させる。