研究トピックス

深海2000 mからの新発見!日本初報告のウミグモとその体表から見つかったウミシダ

関連教員

多様性生物学系の関口翔悟さん(理学院修士課程2年)と角井敬知講師は、東京大学三崎臨海実験所の幸塚久典技術専門職員とともに、深海生ウミグモとその体表から見つかったウミシダに関する成果を論文として公表しました。

ウミグモはクモに似た姿をした海の底にすむ動物です。浅海から超深海まで、熱帯から極域までのあらゆる海域に生息しています。これまでに世界から約1,400種、日本から約170種が報告されています。

今回扱ったのは、学術研究船白鳳丸による日本海溝・千島海溝の深海生物調査の過程で,北海道南東沖の水深約2,000 mの地点から採集された1個体のウミグモです。観察の結果、そのウミグモは、日本周辺のみならず北西太平洋から報告のなかったBathypallenopsis californicaという種であることが明らかになったため、形態的特徴の描画と記載を行いました。また本種は脚先に1本の大きなトゲと1本の爪を持っており、そのさまが高下駄の歯を連想させたことから、新和名「タカゲタカギノテウミグモ」の提唱も行いました。

加えて観察したウミグモの脚の表面上から見つかった動物についても研究を行いました。ウミグモの体表には様々な動物が住んでいることが知られていますが、今回の個体からは、ウミグモ上から報告されたことのないウミシダという動物が発見されました。ウミシダはウニやヒトデ、ナマコなどと同じ棘皮動物門というグループに属する動物です。見つかったウミシダは成体ではなく、固着生活を行う成長段階の個体であり、DNA配列情報からFlorometra asperrima(和名キタアシナガヒメウミシダ)という種だと判断されました。

今回の研究により、日本初報告となるウミグモと、世界初となるウミシダによるウミグモ利用が確認されました。深海にすむ生物の生態、特に異なる種がどのように関わり合って生きているのかについては、観察の難しさから未だ多くの謎が残されています。今回の発見は、深海底でウミグモが他の生物の住みかとして機能していることを示唆するもので、深海における生物の多様性や生態系の成り立ちを理解する上で重要な知見をもたらすものです。

 

図.タカゲタカギノテウミグモとウミシダ.(A)タカゲタカギノテウミグモの背面写真(画像の左側が前方.本来8本脚だが、いくつかの脚が欠損している).(B)脚に固着するウミシダ.(C)タカゲタカギノテウミグモの背面図(上図)と左側面図(下図);いずれも図の左側が前方かつ脚を省略してある).(D)高下駄の歯を連想させた脚先の大きなトゲと爪.

 

論文情報
論文名:First record of the deep-sea sea spider Bathypallenopsis californica (Arthropoda: Pycnogonida) from the northwestern Pacific, with a note on an attached crinoid
著者名:Sekiguchi S, Kohtsuka H, Kakui K
雑誌名:Zoological Science, 42: 335–341. (2025)
DOI:https://doi.org/10.2108/zs250004