研究トピックス

メッセンジャーRNA短くなり動物が産まれる受精後の発生の仕組み解明に期待

北海道大学理学研究院の小谷友也准教授、大学院生命科学院博士課程(当時)の高田裕貴さん、大学院生命科学院博士・修士課程のFierro Ludivine さん、佐藤圭祐さん、眞田崇弘さん、石井晏和さんたちは、成熟mRNAが短くなることを発見し、動物が産まれてくるための新たな仕組みを解明しました。

 細胞の核で転写されたmRNAは細胞質に運ばれる前に長さと配列が決定され、成熟mRNAとなります。成熟したmRNAは、長さを変えることはないと考えられてきました。また、動物の受精卵は発生を進めるためにmRNAからタンパク質を合成しますが、その場所と時期は厳密にコントロールされる必要があると考えられています。研究グループは、動物の受精卵に蓄えられたmRNAが発生のある時期に部分的に短くなることを発見しました。具体的には、ゼブラフィッシュのpou5f3 mRNAとマウスのPou5f1 mRNAの3’側末端の配列が、それぞれ約70塩基と約10塩基短くなることを見出しました。次に、長いmRNAは翻訳を抑制されてタンパク質を合成しないこと、短縮されたmRNAは翻訳を活性化しタンパク質を合成することを示しました。さらに、mRNAの短縮を阻害した胚では翻訳は活性化せず、その後、頭部から尾部までが極めて短い胚となり発生を停止することを明らかにしました。網羅的な解析と抗体を用いた機能解析から、mRNAの短縮は結合するタンパク質を入れ替える分子スイッチとして働くことが示されました。最後に、受精卵が持つmRNAの約5%に相当する568種類のmRNAにおいてその長さの変化を解析し、40%以上のmRNAで短縮が起こることを示しました。本研究によって、受精卵が発生を進行するための極めて重要な原理を見出すことに成功しました。

なお、本研究成果は、2023年11月24日(金)公開のScience Advances誌に掲載されました。

論文名 Mature mRNA processing that deletes 3’ end sequences directs translational activation and embryonic development (3’末端の配列を欠損させる成熟mRNAのプロセシングは翻訳活性化と胚発生を進行する)

著者名 高田裕貴1,2、Fierro Ludivine1、佐藤圭祐1、眞田崇弘1、石井晏和1、山本雄広3、小谷友也1,21北海道大学大学院生命科学院、2北海道大学大学院理学研究院、3慶應義塾大学医学部)

雑誌名 Science Advances

DOI 10.1126/sciadv.adg6532