研究トピックス

日本産ハツカネズミルーツ移入の経緯が明らかに

生態遺伝生物学系の鈴木仁先生のグループは、生物学科卒業生の桑山崇さんを中心としたDNA塩基配列の解析により、30年来不明であった日本産ハツカネズミの起源と移入の時代背景を明らかにして論文発表しました。この成果は、桑山さんの修士論文の研究成果が論文として発表されたもので、北大のプレスリリースでも紹介されました。以下、鈴木先生による解説です。

インド周辺域が発祥の地であるハツカネズミは、穀類を主食とし、先史時代のヒトの農耕の発展とともに、ユーラシア全域に拡散したと考えてられています。先行研究のミトコンドリアのDNA解析より、日本には南アジア亜種系統 (Mus musculus castaneus)と北ユーラシア亜種系統(Mus musculus musculus)の2系統の存在が明らかにされていましたが、この2つの系統の由来や詳細な経緯については長らく不明でした。今回、ミトコンドリアDNAの解析から、南アジア亜種系統は、大陸部において約8000年前に一斉放散し(図A: クラスター1)、続いて、その一部の子孫系統が、約4000年前に中国南部にいて再び一斉放散し(図A: クラスター2)、その際、日本列島および南サハリンまで展開したと推定されました。一方、北ユーラシア亜種系統は約2000年前に朝鮮半島で生じた一斉放散の際に、日本列島に移入したことが示唆されました。したがって、南アジア亜種系統と北ユーラシア亜種系統は、それぞれ縄文後期と弥生期の始まり頃に日本列島に移入したものと思われます(図B)。また、隣接する複数の核遺伝子を解析し、ハプロタイプ構造(隣接する遺伝子座の対立遺伝子の組み合わせ)を解析しました。二つの亜種系統の交雑が長期になれば、組み換えによって各亜種由来の断片は世代に比例して短くなっていくため、混合の時期が推察可能です。その結果、中国南部由来の南アジア亜種系統は南日本においては現在では北ユーラシア亜種系統によってほぼ駆逐され、一方、北海道・東北地方においては、ある程度の時間が経過したのち、朝鮮半島から渡ってきた北ユーラシア亜種系統と交雑して現在に至っていることが示されました。さらに、核遺伝子の解析からは、日本列島に「第三の系統」が存在することも示唆されました。日本を含め、先史時代の人類の動態把握に有用な情報を提供していると思われます。

発表論文: Kuwayama T, Nunome M, Kinoshita G, Abe K, and Suzuki H. (2017) Heterogeneous genetic make-up of Japanese house mice (Mus musculus) created by multiple independent introductions and spatio-temporally diverse hybridization processes. Biological Journal of the Linnean Society 122: 661–674.
https://doi.org/10.1093/biolinnean/blx076