理学部生物学科の学生が2022年度海外ラーニング・サテライト事業『未知の植物資源開拓に向けた基礎生物学プログラム』に参加しました!
北大の海外ラーニングサテライトは、本学教員と海外の大学等との共同教育プログラムを実施する本学の授業科目に、本学学生と海外大学等の学生が参加する共修環境を提供することで、世界の課題解決に貢献する人材を育成するとともに、海外大学の教員との協働による本学の教育の国際通用性や質の向上を目的としています。今年度は、生物科学科から4名の学生と2名の教員が参加しました。2022年10月2日から8日までの期間で、タイ王国プリンスオブソンクラー大学を訪問し、植物を用いた実習を行いました。プリンスオブソンクラー大学の学生と本学科の学生が直接同じ場で学習し、時間を共にすることで学術的な知識の習得と、国際性やコミュニケーション能力を養うことができました。
実習や講義の合間には、遠足が企画され、また周辺の街やジャクフルーツ畑、マングローブの茂る海岸や綺麗な白砂の海岸などを散策する機会に恵まれました。日本では決して味わえない果物や食事、景勝地をプリンスオブソンクラー大学のスタッフや学生たちと楽しみました。参加した双方の学生にとってもとても楽しく印象に残る時間を過ごせたようです。
以下、ラーニングサテライトプログラムの感想、体験談です。
【Sさん】
まず、外国で学ぶ、すなわち、いつもの環境とは異なる場所、設備、言語、教育体系の中で学ぶということについて、書く。
実習を行うにおいてその設備が日本のものとどれほど異なっているのか、どれだけ日本での実習を再現できるのか、というところが今回の実習における事前の打ち合わせで問題に上がっていた。ある程度ソンクラー大学側から教えてもらってはいたものの、実際見てみないと分からないというところがあった。しかし、実際行ってみると実習においては十分すぎるほどの設備がそろっていた。
タイの学生との交流はかなり頻繁にとることができた。実習中はもちろん、実習が終わった後も食事を共にすることが多かった。例えば学食や屋台が開かれているマーケットで食事を取ったり、大型ショッピングセンターに足を運んだりした。その際に、タイの学生の生活の様子を聞いたり、食文化について知ったりすることが出来た。特に驚いたことは、タイの外食が日本のものに比べて安いことだ。タイは外食文化であり、比較的外食は安く設定されているところが多いようだ。しかし、それでも屋台や学食の食事はかなり安く、300円も持っていけばかなり満足することが出来る。このことは特に円安の状況であったことも相まって、かなり衝撃であった。裏を返すと日本を訪れるタイの観光客や留学生は日本での外食の値段の高さに驚き、苦労することになるのではないだろうか。
また、タイの学生はコミュニケーションを積極的に取りに来てくれたことも驚きであった。恐らく、同世代の日本人と実際に会うのが珍しかったのではないだろうか。しかし、彼らのこの積極性にはかなり救われた。質問をすれば、我々の拙い英語でも何とかくみ取って色々と教えてくれるし、日本人だけでは中々挑戦しづらいタイの独特な食文化にも触れることが出来た。
次に、ソンクラー湖やコーヨー島でのExcursionにて得られたものについて書く。ソンクラー湖はタイ最大の汽水湖であり、その植生は非常に特徴的である。ソンクラー湖は乾季と雨季に流入する水量が変化し、その塩分濃度が変化する。また、雨期におきる洪水などによって攪乱が比較的頻繁に起きる。そのため、植物相の変化が激しい。Field Tripではソンクラー湖の北部、河口から最も離れた場所に位置する植物園を訪れ、ソンクラー大学の植物分類学の研究者の方の解説を受けながら日本には生育していない様々な植物が原生している様子を観察した。また、研究者の方からのお話で、現在、ソンクラー湖にはかなりの数の外来種が侵入していることが分かった。見渡す限り水生植物の楽園に見えるが、実はそのほとんどが外来種である、ということであった。なぜ、そこまで外来種の進入を許してしまったのかというと、タイは熱帯気候に属しており、比較的気温によるストレスが少ないことが挙げられるそうだ。例えば日本のように式が存在する環境では、夏の暑さや、長雨、冬の寒さなどに抵抗する必要があるがタイでは比較的暖かいため旺盛な成長をする植物種であればあっという間に優占するようになってしまうそうだ。似たような状況は日本の小笠原でも見られており、移入に対する管理はどの国でも共通の課題であるようだった。
Field Tripでは自然に関してだけでなく、タイの歴史や文化にも触れることが出来た。ソンクラー湖周辺には多くの仏教寺院が点在しているが、その中でもかつてソンクラー地方の行政の中心が置かれていたワット・パッ・コッを訪ねた。この寺院には女性が登ることを許されていないパゴダや数百年前の旧寺院の遺構などが残されている。この寺院は先述の通り寺院の建物の再建が行われているが、新しく建てられたものはタイ仏教における決まりを踏襲しないものとなっているようである。タイの仏教寺院は南に正面を向けるようにたてられるのが通例であるようだが、この寺院の新しいパゴダは東に向いていた。これはタイ、という国がたどった歴史を物語っているように思う。外から来た人々が現地のしきたりや慣習をよく理解しないままに、真似た結果であろう。
Excursionではソンクラー湖に浮かぶ島、コーヨーやソンクラー旧市街、サミラビーチを訪ねた。コーヨーでは巨大な涅槃像や伝統的な手織物の工房、観光農園を訪れた。これらの経験から、タイには仏教が深く根付いていること、タイの人々が伝統文化や自然に存在している資材を大切にして歴史を紡いでいることが分かった。
最後に、今回のタイでの実習全体を通して強く感じたのは、実習に参加する各人の何かを学び取ろうという姿勢が非常に大切であるということだ。例えば、実習に参加する前に互いの実習内容で何を行うのかということが分かっていれば、それを踏まえて参加する学生は予習が出来るかもしれない。今回の実習は研究室での実習もField TripやExcursionでの行き先や内容もある程度周知されていたので、事前に色々と調べて、現地に行って確認して、という経験をすることが出来た。なぜ、その実習が行われるのか、そこから何を学び取って欲しいと教員は考えているのか、ということについても考えて臨みたい。
【Kさん】
はじめに、実験のTAとして参加したことについて述べる。
まず挙げなければいけない点は、設備の種類や量の違いによりできる実験が制限された、ということだろう。実際にタイへ行く前の検討段階で、当初予定していた実験内容から変更した部分がいくつか存在した。また、蛍光顕微鏡はタイ側との連絡で「使える」という話だったため蛍光観察を含めた実験を行ったが、実際は実験を行う教室とは別の建物に設置されていた。そして、その蛍光もすべてのサンプルでは見えず、移動の手間に見合うほどの成果だったのか、個人的には疑問に思ってしまった。正しい情報の伝達の重要性と難しさ、正確な情報をもとに行う実験や扱うサンプルなどを決定することの大事さを感じた。
現地の学生との交流では、昼食時には学内のフードコートへ、放課後はマーケットなどへ案内してもらい、言語などの面でもサポートしてもらって本当にありがたかった。ただ、こちらから返せるものがほとんどなかったことが心残りとしてある。教授方へのお土産は伊藤先生、楢本先生が用意していたが、現地の学生に向けたお土産を学生側で準備しておけばよかったと後悔している。また、自分としてはなるべく積極的に話をするよう心掛けていたが、物として何も準備できていない分、会話を通してもっと返せたものがあったのではないか、とも思っている。
3日目のソンクラー湖へのフィールドトリップや、大学構内でも感じていたことだが、日本と植物相が全く異なることも印象的だった。熱帯と温帯や亜寒帯で違いがあるのは当然ではあるが、特にシダ植物には驚かされた。形状や大きさが日本のワラビなどに似ているもの、全く似ていないもの、小さいものから背丈を超える大きさのものまで、多種多様に存在していた。中でも、大型のシダからは古生代の木生シダが思い出された。形態などは当時とは大きく異なるだろうが、授業で習った際はイメージがほとんどできなかったものが、少しは想像しやすくなったように思う。
最もつらかった記憶は、空港内の冷房の強さだろう。飛行機の遅延により寒い中で待つことになり、機内に持ち込む荷物に上着を入れておくことの重要性を痛感した。また、タイ語の文字には面食らい、同時に、日本を訪れる外国人も似た心境になるのだろうかと考えた。
そういった苦い体験も含め、貴重で有意義な経験をさせていただいたと思います。本当にありがとうございました。
【Rさん】
私はタイ南部のハジャイという都市にあるプリンスオブソンクラー大学(PSU)で開かれた、一週間のラーニングサテライトに参加した。
私たちの研究室ではシロイヌナズナのゲノム中に含まれる、ONSENと呼ばれるレトロトランスポゾンに関する研究を行なっている。このトランスポゾンは熱によって活性化するという特性をもっている。今回のラーニングサテライトでは、そのONSENのプロモーターにGUSやGFPといったレポーター遺伝子をつなげた配列を導入した変異体シロイヌナズナを用いて、ONSENの転写活性について調べるという実験を紹介した。PSUの学生たちはトランスポゾンやこの実験に非常に熱心に取り組み、多くの質問をしてくれたのが印象的だった。
また私たちはPSUの教授らによる講義に参加した。中でも印象に残っているのは、ソンクラー湖でのフィールドトリップである。ソンクラー湖はタイ最大の湖であり、その周辺では雄大な自然を目にすることができる。一部マングローブが見られる場所があり、水面から顔を出すたくさんの気根を目にした時は感動を覚えた。教授からソンクラー湖周辺の貴重な植生が外来の植物によって脅かされていることや湖のまわりでは森林伐採が問題となっていることを教えていただいた。実際に自然にふれながら環境問題に対する意識を高めることができた。
PSUの学生たちは非常にフレンドリーで授業時間外に私たちをハジャイ市街地の様々な場所へ案内してくれた。地元の市場やデパートで一緒に買い物をし、屋台ではおすすめのグルメを紹介してくれた。私自身、タイを含め東南アジアに来たことが一度もなかったので、全ての体験が新鮮だった。今後もし同様のイベントで外国の学生たちが日本に来るようなことがある場合は、彼らがしてくれたのと同じように日本の文化を伝えたいと思う。
また、このラーニングサテライトでは自分自身の課題も見つかった。リーディングやリスニングのテストではそれなりに点数が取れていたので英語にはある程度自信があった。しかし今回実際に外国に行って英語で他人とコミュニケーションをとった時に返答に詰まってしまったり、自分から積極的に話しかけられなかったりと本当の意味での英語力が足りていないことを実感した。今後外国の方と交流するイベントがあれば、自分の英語力を高めるチャンスだと思って積極的に参加したい。
【Tさん】
ラーニングサテライトで最も深く印象に残っているのは現地の学生や異文化との交流である。今回の5日の実習を通して、PSUの学生とともに過ごす時間が多かった。自分たちが実験を行う時間はもちろん、くだらない雑談まで自分のつたない英語を必死に聞き取ろうとしてくれ、英語力にも多少の自信がついた。昼食や夕食は彼らが日常的に食事を行う市場や屋台に連れて行ってくれ、観光地ではできないディープな体験もすることが出来た。屋台の食事は日本人からしたらやや衛生面に恐怖を感じる部分はあったが、恐れず食べてみるとどれも日本にはない独特の香りがして非常においしく、楽しかった。彼らのおもてなしのおかげで、外国という空間にどうしても感じてしまう若干の恐怖などは完全になくなった。もし今後外国の方を日本にもてなす機会があったら、はりきって全力で行いたいと感じさせられた。タイの南部であることからイスラム教徒の方も多く、さまざまな人種が入り混じっていた。日本はどうしても単一民族国家であり日常なかなか感じられない部分もあるが、しっかりとお互いに配慮すれば人種に関わらず交流は問題なく可能と再認した。
PSUの理学部ではコメを用いた実験や研究が多く行われていることに気が付いた。日本においてもコメは需要が高いものと思われるが、タイでのそれははるかに上回っていた。現地の植生は日本とは全く異なっていて、町や大学に生えている植物を観察するだけでも非常に楽しい時間だった。そして何より英語をもっと使えるようにならなくてはと感じさせられた。自分のほかに学生は3人いたが、全員自分より英語を流ちょうに使えていて、自分自身が説明できず代わってもらうこともあった。自分の口から伝えたいことも多くあったので歯がゆい思いをした。
今回の5日間は自分にとって一生忘れないであろういい思い出になった。タイという国を好きになり、タイの食事を好きになり、タイ人のやさしさに触れることが出来た。様々なことを学び多く成長できたように感じる。