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世界3例目となる珍しい寄生虫の新種を発見

タナイス目に属する小型甲殻類の研究を続けている角井敬知講師(多様性生物学講座I)が、タナイス類に寄生するカイアシ類を発見し、論文として公表しました。

カイアシ類は、これまでに1万種以上が記載されている水生甲殻類の一群です。比較的身近なカイアシ類として、池などに住んでいる浮遊性のケンミジンコが挙げられます。カイアシ類全体を見回すと、実はケンミジンコのように自由生活を行う種は半数ほどで、残りの種は寄生・共生生活を営んでいます。カイアシ類の寄生対象生物(宿主)は多岐に渡っていて、例えば魚類や甲殻類、貝類などの利用が知られています。個々の種を見てみると、様々な宿主に寄生する種がいる一方で、特定の宿主だけから見つかっているカイアシ類も多く知られています。

寄生性カイアシ類には上に述べたとおり、甲殻類を利用する種も多く知られます。しかし約1200種からなるタナイス類への寄生報告は非常に少なく、これまでに全世界から2種、計2個体が知られているに過ぎませんでした。今回角井講師は、練習船勢水丸(せいすいまる)による熊野灘での調査航海、ならびに研究船蒼鷹丸(そうようまる)による東シナ海での調査航海中に、4個体のタナイス寄生性カイアシ類を発見しました。得られたカイアシ類は、甲殻類と聞いて思い浮かべるような節の連なった姿からはかけ離れた丸い袋のような形をしており、細い管のような器官をタナイスの体に突き刺して寄生していました。観察の結果、2種の未記載種(名前の付いていない種)であると判断されたため、新種記載を行い、分子系統解析の結果と合わせて論文として発表しました。

今回のタナイス寄生性カイアシ類の発見は、世界で3例目で、北太平洋からは初めてのものとなります。また、2種の含まれる属(Rhizorhina)から約30年ぶりとなる新種の記載でもあります。寄生性カイアシ類はどのように宿主の範囲を拡大し、進化・多様化してきたのか。本研究は、寄生性カイアシ類がタナイスを利用するに至るまでの進化史を明らかにするうえでも重要な成果だと言えます。

以上の研究成果は、Systematic Parasitology誌に掲載されています。

rhizorhina図はタナイス類に寄生するカイアシ類2種。矢印の示す方向が体の前方。体の後ろについているのは卵嚢。スケール: 1 mm (A-C); 0.5 mm (D-F)。

発表論文:Kakui K. (2016) Descriptions of two new species of Rhizorhina Hansen, 1892 (Copepoda: Siphonostomatoida: Nicothoidae) parasitic on tanaidacean crustaceans, with a note on their phylogenetic position. Systematic Parasitology 93: 57-68.

リンク:http://link.springer.com/article/10.1007/s11230-015-9604-x