ラムサール条約登録湿地から寄生虫の新しい中間宿主を発見
タナイス目に属する小型甲殻類の研究を続けている角井敬知博士(多様性生物学講座I所属)が、タナイス類を中間宿主として利用する吸虫を世界で初めて発見、論文として公表しました。
ラムサール条約は、特に水鳥の生息地として重要な湿地等の生態系保全・管理を目的とする国際的な条約で、日本では40あまりの湿地・水域が登録されています。その中の一つに沖縄島南部に広がる漫湖干潟があります。今回角井博士は、同干潟においてハナダカアプセウデス(Longiflagrum nasutus)というタナイスの調査中に、複数のタナイスから球形の内部寄生虫を発見しました。その寄生虫について、光学顕微鏡を用いた形態観察と複数遺伝子の塩基配列の決定を行ったところ、今回見つかった寄生虫は吸虫の被嚢幼虫であり、Microphallidae科に属する種であると判断されました。Microphallidae科の吸虫は脊椎動物、主に鳥類を最終的な寄生対象動物(終宿主)として利用する寄生虫です。また同科の宿主特異性は高くなく、終宿主として複数の動物種を利用するグループだとされています。約200種の鳥類が確認されている漫湖干潟からの同グループの発見は、ハナダカアプセウデスを介した吸虫感染が複数種の鳥類で起きている可能性を示唆しています。
今回の研究は、2段階の中間宿主(第1中間宿主と第2中間宿主)と終宿主からなると考えられる吸虫類の生活史のうち、第2中間宿主の正体を明らかにしたに過ぎません。しかし、世界中の浅海・汽水域を中心に時に爆発的に出現するタナイス類が、吸虫の第2中間宿主として利用され得るという今回の発見は、未だ解明されていない多くの吸虫類の生活史解明に大きく貢献することが期待されます。
以上の研究成果は、Fauna Ryukyuana誌に掲載されています。なお本研究の一部は公益財団法人水産無脊椎動物研究所から助成を受けて行われました。
図.ハナダカアプセウデスに寄生する吸虫の被嚢幼虫(2個体;矢頭)。
Kakui, K (2014) A novel transmission pathway: first report of a larval trematode in a tanaidacean crustacean. Fauna Ryukyuana 17: 13-22.