植物のパピラ(病原体防御壁)形成に重要な膜交通系とユビキチンリガーゼの機能を明らかに
形態機能学系の山口先生と佐藤先生の研究室から論文が発表されました。以下、山口・佐藤研究室による解説です。
植物の二大栄養素である糖(炭素源,C)と窒素(N)の代謝はクロストークしています。そのため,環境や生育段階に応じて互いの量的バランス(C/N)を適切に制御することは,植物の健全な生育のみならず,病原体への抵抗反応にも重要です。私たちはこれまでにシロイヌナズナを用いて,C/N制御因子であるユビキチンリガーゼATL31が,病原性細菌への抵抗性にも機能していることを発見しています(Sato et al., Plant J., 2009; Maekawa et al., Plant Mol. Biol. 2012)。
今回の論文で私たちは,ATL31の新規相互作用因子として細胞膜局在型SNAREであるSYP121を同定しました。このsyp121変異体は,atl31変異体と同様に,C/Nストレスに過剰応答しました。SYP121は,うどんこ病菌が植物葉に侵入する部位に特異的に集合することで,侵入のバリアーとなる特殊な細胞壁である「パピラ」の形成に重要なはたらきを示します。そこで,ATL31のうどんこ病菌感染時の細胞内局在を観察したところ,通常時は細胞膜にのみ局在しているATL31が,SYP121と同様にうどんこ病菌侵入部位に集合している様子が観察されました(図上)。次に,うどんこ病菌への抵抗性を検証した結果,ATL31過剰発現体(35S-ATL31)はsyp121変異体とは逆に侵入率が低下しており(図下),それはパピラ形成の速度が増加しているためでした。これらのことから,ATL31はSYP121とともにパピラ形成に関与しており,その結果,C/N応答のみならず,うどんこ病菌への抵抗性に重要なはたらきをもっていることが分かりました。
図.うどんこ病菌侵入時のATL31の局在(上)と,うどんこ病菌侵入率(下)
Maekawa, S., Inada, N., Yasuda, S., Fukao, Y., Fujiwara, M., Sato, T. and Yamaguchi,J. (2014) The C/N regulator ATL31 controls papilla formation in response to powdery mildew fungi penetration by interacting with SNARE SYP121 in Arabidopsis. Plant Physiology. 164: 879-887 http://dx.doi.org/10.1104/pp.113.230995