植物は同じ「匂い」でも遺伝子の反応が違う! ― 植物の高温ストレス応答に関わる遺伝的多様性を解明する手がかりを発見 ―
ポイント
・植物由来の揮発性物質に対する遺伝子応答が、シロイヌナズナの系統間で大きく異なることを確認
・高温応答遺伝子 HSFA2 の発現領域と上流領域に、合計 21 か所の候補変異を特定
・植物の遺伝的多様性と環境ストレス応答の関係を理解するための新たな手がかりを提供
概要
形態機能学系の Baibhav R. Barbaruah さん、Bhanu Rekha Vaddi さん(いずれも生命科学院大学院生)及び伊藤秀臣准教授は、植物が放出する揮発性物質に対する遺伝子の応答が、同じ植物種でも遺伝的背景によって大きく異なることを明らかにしました。
植物は、傷ついた際などに「緑の香り」と呼ばれる揮発性物質を放出します。これらの物質には、周囲の植物が高温などの環境ストレスに備える働きがあることが知られています。
研究グループは、シロイヌナズナの 2 系統(Col-0 と Cvi-0)に、緑葉揮発性物質の一つである trans-2-ヘキセナールを曝露し、遺伝子の発現を比較しました。両系統とも、この揮発性物質によって高温耐性が向上することがわかっています。しかしながら、高温ストレス応答に重要な転写因子遺伝子 HSFA2 の発現誘導が、Col-0 系統と比較して Cvi-0 系統では著しく弱いことを発見しました。
さらに、RNA シーケンス解析と公開ゲノム情報を組み合わせた解析により、HSFA2 遺伝子の発現領域に 8 か所、上流の発現調節に関係する可能性のある領域に 13 か所、合計 21 か所の候補となる一塩基変異を特定しました。これら 21 か所の変異の組合わせは、すべての対象部位について遺伝子型情報が得られた 600 系統の中で、Cvi-0 にのみ認められました。
本研究は、植物が同じ化学シグナルを受け取っても、遺伝的背景によって異なる遺伝子応答を示す仕組みを理解するための重要な手がかりとなります。今後、これらの変異の機能を検証することで、植物の環境ストレスへの適応機構の解明が進み、将来的にはストレス耐性作物の開発や、植物由来の揮発性物質を活用した農業技術への応用につながることが期待されます。
研究支援
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(挑戦的研究(萌芽)、課題番号:25K22430)および北海道大学国際大学院プログラム(International Graduate Program:IGP)の支援を受けて実施されました。

論文情報
論文名:Natural variation at HSFA2 is associated with attenuated volatile-induced heat-shock transcription in Arabidopsis
著者: Baibhav R. Barbaruah, Bhanu Rekha Vaddi, Hidetaka Ito
学術誌: Plant Gene
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352407326000600