研究トピックス

高温で活性化する「動く遺伝子」ONSEN制御領域の特徴を解明 -高温応答配列、DNAメチル化、自然変異を統合的に解析-

 形態機能学系のBaibhav R. Barbaruahさん、Rahmadani P. Airlanggaさん、伊藤秀臣准教授の研究グループは、シロイヌナズナの高温応答性レトロトランスポゾン ONSEN の制御領域に特徴的なDNA配列とエピジェネティックな状態を明らかにしました。
 ONSEN は、高温によって転写が活性化する「動く遺伝因子」です。本研究では、転写因子結合モチーフ、DNAメチル化、RNA-seq、さらに複数の自然系統のゲノム配列を統合的に解析しました。
 その結果、ONSEN の末端領域には、高温応答を担うHeat Shock Factor (HSF) が認識可能な配列が他のトランスポゾンと比較して高密度に存在することが分かりました。一方、この領域は通常条件では高いCHH DNAメチル化を示しながら、高温処理によって ONSEN の転写が大きく増加しました。
 さらに、複数のシロイヌナズナ自然系統を比較したところ、ONSEN の塩基配列には変異が存在するものの、HSFが認識可能な特徴は多くの場合維持されていました。
 これらの結果から、ONSEN は、高温に応答できるDNA配列と、通常時にはその活性を抑えるエピジェネティックな特徴を併せ持つことが示されました。

発表のポイント
• シロイヌナズナの高温応答性レトロトランスポゾン ONSEN の末端領域に、高温応答を担う転写因子Heat Shock Factor(HSF)が認識可能な配列が高密度に存在することを明らかにしました。
ONSEN の末端領域は、他のLTR型レトロトランスポゾンより高いCHH DNAメチル化を示す一方、高温によって転写が顕著に活性化しました。
• 複数のシロイヌナズナ自然系統を比較した結果、配列変異が存在してもHSF認識能は概ね維持されていることが分かりました。
• 本研究は、高温応答配列、エピジェネティック制御、自然変異を統合して解析することで、環境ストレスに応答するトランスポゾンの制御を理解するための新たな基盤を提示しました。

研究の背景と成果
 植物ゲノムに存在するトランスポゾンの多くは、DNAメチル化などによって通常は抑制されています。しかし、一部のトランスポゾンは環境ストレスによって活性化します。ONSEN はその代表例であり、高温によって強く転写されることが知られています。
 研究グループは、シロイヌナズナCol-0系統の ONSEN 末端領域をゲノム中の他のトランスポゾンと比較しました。その結果、ONSEN はゲノム中でも特にHSF認識配列が豊富なトランスポゾンであることが明らかになりました。また、ONSEN のHeat Shock Element (HSE) 配列を計算上で破壊すると、HSFによる認識可能性が失われました。
 さらに、ONSEN 末端領域では他のLTR型レトロトランスポゾンよりCHH DNAメチル化が高い一方、37℃の高温処理によって ONSEN の転写が顕著に増加しました。
 これらの結果は、ONSEN の高温応答性が、特徴的なDNA配列とエピジェネティックな状態の組み合わせと関連していることを示しています。

今後への期待
 本研究により、ONSEN の末端領域には、高温応答性に関わると考えられる配列と、通常時にその活性を抑えるエピジェネティックな特徴が共存していることが明らかになりました。
 今後、植物体内におけるHSFの結合やHSE配列の機能を実験的に検証することで、高温による ONSEN 活性化の分子機構の理解がさらに進むと期待されます。また、環境変化によるトランスポゾンの活性化が、植物ゲノムの多様化や環境適応にどのように関わるのかを理解することにもつながると期待されます。

論文情報
論文名:Heat-responsive ONSEN long terminal repeats integrate heat shock factor motifs, DNA methylation and natural sequence variation in Arabidopsis
著者:Baibhav R. Barbaruah, Rahmadani P. Airlangga, Hidetaka Ito
本論文の著者であるBarbaruahさんとAirlanggaさんは、いずれもIGP(International Graduate Program)の支援を受けて研究を進めてきました。
掲載誌:Biology Open. bio.062799 (2026).
DOI:10.1242/bio.062799

ONSEN の末端領域に存在するHSF認識配列
シロイヌナズナCol-0系統に存在する8つの ONSEN について、それぞれの両末端800塩基の領域に、高温応答を担う転写因子HSFが認識すると予測される配列がいくつ存在するかを解析しました。重複する予測を除いて解析した結果、すべての ONSEN の末端領域に多数のHSF認識配列が存在することが分かりました。紫色とピンク色の棒は、それぞれ ONSEN の両側の末端領域を示しています。