研究トピックス

植物は「におい」寒さに備える葉の香り成分が、植物の耐寒性を高める仕組みを解明

 形態機能学系のBaibhav Barbaruahさんと伊藤秀臣准教授は、植物が放出する「におい成分(揮発性有機化合物)」を短時間かぐだけで、後の強い寒さに耐えやすくなることを明らかにしました。この研究は、植物が環境の変化に先回りして備える「予測的な応答」の仕組みを示すもので、将来的には寒さに強い作物づくりへの応用が期待されます。

 植物は動けないため、急な寒波や霜から身を守ることが生存に直結します。通常、植物は低温にさらされてから体の中の仕組みを切り替えますが、この方法では急激な寒さには間に合わない場合もあります。一方で、植物は傷ついたときなどに「青葉の香り」と呼ばれる成分を放出します。Barbaruahさんと伊藤准教授は、この香りが単なる副産物ではなく、将来のストレスに備える“合図”として働くのではないかと考えました。

 そこで、モデル植物であるシロイヌナズナに対し、葉の香り成分trans-2-ヘキセナールを30分間暴露してから2日間通常環境で育て、その後さらに-20°Cという強い凍結ストレスを与えるという実験を行いました。その結果、香りを与えなかった植物ではほとんどが枯れたのに対し、香りを与えた植物では生存率が大幅に向上しました。さらに遺伝子解析の結果、寒さに備えるための遺伝子が、実際に寒さを受ける前から活性化していることが分かりました。これは、植物が「におい」を手がかりに先回りして準備していることを意味します。

 急な寒波による農作物被害は、世界的な課題となっています。伊藤准教授らの研究は、遺伝子組み換えを使わずに植物の耐寒性を高める可能性を示唆しており、将来的には環境に優しい作物保護技術や持続可能な農業への応用が期待されます。

掲載誌:Gene (Elsevier)
タイトル:A short trans-2-hexenal pulse primes freezing tolerance and a cold-response transcriptome in Arabidopsis thaliana
著者:Baibhav R. Barbaruah, Hidetaka Ito
リンク:https://authors.elsevier.com/a/1mYbC1L%7EGB2DiX

伊藤准教授コメント:現在D3のIGP学生であるBaibhavの研究成果です。植物が“におい”を手がかりに、これから来る寒さに備えていることが分かりました。短時間の刺激で、数日後の運命が変わる点は非常に興味深く、植物の賢さを改めて実感しています。

図:葉の香り成分(VOC)がイネの低温障害を軽減する
(a) 低温処理後のイネの様子。
左は香り成分を与えていない対照区(Control)、右は事前に葉の香り成分(VOC)を30分間与えた区(VOC)。
VOCを与えたイネでは、葉の黄変や枯れが少なく、緑色が多く保たれていることが分かる。
(b) 低温処理後の葉のダメージを数値化した結果。
左のグラフは枯死した部分の割合(ネクローシス率)、右のグラフは緑色を保っている葉の割合を示す。
VOCを与えた区では、枯れた部分が大幅に減少し、健全な緑色の葉が有意に増加した。
棒グラフは平均値、エラーバーはばらつきを示す。異なるアルファベットは統計的に有意な差があることを示す。