研究トピックス

寄生性甲殻類の一群「ワラジヤドリムシ科」を日本から初めて報告

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 多様性生物学系の白木祥貴さん(理学院博士課程2年)と角井敬知講師の研究グループが,日本からこれまで報告のなかった「ワラジヤドリムシ科」という寄生性甲殻類を神奈川県と沖縄県の浅海域から発見,論文として発表しました。
 ワラジヤドリムシ科(Cabiropidae)は,ワラジムシやダンゴムシ,フナムシ,ダイオウグソクムシなどが含まれる等脚目(ワラジムシ目)に属する一群です。本科のメスは海域にすむ別科の等脚類の育房内から見つかり,詳しい生活様式はわかっていませんが,寄生相手(宿主)の卵を食べる寄生性生物と考えられています。世界から約35種が知られていますが,これまでに日本からの報告はありませんでした。
 今回,神奈川県と沖縄県の浅海域で実施した採集調査の過程で,ウミナナフシ上科という等脚類から3個体のワラジヤドリムシ類を発見しました。なお過去にウミナナフシ上科からワラジヤドリムシ科と判断された個体の記録はなかったため,本報告はワラジヤドリムシ科の日本初報告であると同時に,本科の新たな宿主グループの報告でもあります。
 形態情報とDNA配列情報を用いた研究の結果,3個体はそれぞれ名前の付いていない種(未記載種)であること,ワラジヤドリムシ科の既知14属と本科に属する可能性のある10属のいずれにも所属しないことが明らかとなったため,新属Anthuroniscus(ウミナナフシヤドリ属)を設立したうえで,3種をAnthuroniscus shimomurai(ソラマメウミナナフシヤドリ;下図),Anthuroniscus dentatus(ギザギザウミナナフシヤドリ),Anthuroniscus latus(フトマルウミナナフシヤドリ)という学名で新種記載しました。
 ワラジヤドリムシ科のメスは,一見して甲殻類とは思えないイモムシのような姿をし,育房内という見つかりにくい場所に住んでいます。そのため見落とされやすく,存在に気づいたとして正体が容易にわからないという発見上・分類上の難しさがあり,それゆえに国内報告を欠いていた可能性が考えられます。日本国内から海産等脚類は約500種が知られていますが,ワラジヤドリムシ科が見つかっているのは今回の3新種の宿主である3種のウミナナフシ上科に過ぎません。今後,ワラジヤドリムシ科の探索を目的とした調査を行うことで,多くの未報告種の発見が期待されます。

図.モヨウウミナナフシ属の一種の育房内にひそむAnthuroniscus shimomurai(ソラマメウミナナフシヤドリ;矢印)。上から順に宿主の腹側,左側,右側から撮影した写真。ソラマメウミナナフシヤドリは育房内で後ろ向きになっている。

発表論文:Shiraki S, Kakui K (2024) Isopods on isopods: integrative taxonomy of Cabiropidae (Isopoda: Epicaridea: Cryptoniscoidea) parasitic on anthuroid isopods, with descriptions of a new genus and three new species from Japan. Invertebrate Systematics, 38: IS24013. https://doi.org/10.1071/IS24013

著者最終稿へのリンク:https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/92938