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トランスポゾン宿主植物の巧妙な生存戦略が明らかに!

形態機能学講座Ⅲの加藤教授と伊藤助教のグループに所属する博士大学院生・松永航さんが論文を発表しました。研究室で行っている植物のトランスポゾンに関する一連の先端的な研究に関する成果です。以下、松永さんと伊藤助教による解説です。

トランスポゾンは私たちヒトも含め、多くの生物でゲノムの大部分を占める因子であり、活性化すると宿主ゲノムに大きな影響を与えます。しかし、ほとんどのトランスポゾンはDNAのメチル化やヒストン修飾などによって、活性化できない状態になっています。この抑制機構は様々なストレスによって解除されることが知られており、私たちはモデル植物であるシロイヌナズナにおいて、熱ストレスで活性化するレトロトランスポゾンであるONSENに着目し、研究を行っています。

ONSENは遺伝子と同じようにmRNAに転写され、染色体外DNAと呼ばれる自身のコピーを作製します。これが染色体に入り込むことを転移と呼びます。このことから、通常は転写と転移の二重のロックがかかっていると考えています。私たちは、このロックが緩くなった変異体を用いてONSENの活性制御機構に関するいくつかの知見を明らかにしてきました(Ito et al., 2011, Matsunaga et al., 2012)。今回は以下に示す結果が得られました。

 

・転写活性は数日で消失する。

・熱ストレスだけでなく、酸化ストレスによっても活性化する。

・転写量が多いと転移頻度にも影響する。

・発芽後わずか1日という幼少期の植物に熱ストレスを与えても転移する。

・転移は同じ枝で似通ったパターンを示すが、異なる枝では異なるパターンとなる(下図)。

 

転写と転移のロックが緩くなった変異体では熱ストレスをかけると、その次世代において高頻度な転移が観察されます。つまり若い時期に熱ストレスを与えて転写が活性化され、その活性は数日で消失するにも関わらず、生殖組織が形成されるときには転移することになります。さらに転移パターンの解析から、それぞれの生殖組織で独立に転移のイベントが発生することが示唆されました。

環境ストレスは植物に多大な影響を与えます。ONSENはストレスを受けた植物が自身のゲノム構造を積極的に変化させる手段と考えられています。今後もONSENの制御機構の全容解明に取り組んでいきたいと思います。

 

発表論文リンク先

http://journal.frontiersin.org/Journal/10.3389/fpls.2015.00048/abstract