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聴覚に依存しない発声パターン固定化のメカニズムを解明

行動神経学系の和多和宏研究室に所属する博士大学院生の森千紘さんが論文を発表しました。発声学習のメカニズムに関する画期的な成果で、北海道大学のプレスリリースでも紹介されています。以下、和多先生と森さんによる解説です。

これまでヒトの言語獲得のような発声学習において,聴覚入力が発声パターンの発達・固定化、また脳内の遺伝子発現にどのような影響を与えるか、よくわかっていませんでした。今回、我々の研究室では、発声学習の動物モデルとして知られる小鳥(ソングバード)を用いて、お手本となる親鳥の歌と自分の声が聞こえない聴覚除去個体をつくり、その発声発達及び脳内の遺伝子発現変化を詳細に解析しました。

その結果,聴覚入力がなくても、個体発達に伴って歌パターンが変化すること,また正常個体よりも3倍もの日数をかけて最終的に歌が固定化することがわかりました。また、このような正常個体と聴覚除去個体間での歌発達の大きな違いにも関わらず、発声学習・生成に関わる脳部位における遺伝子群の発現変化は発達過程を通じて非常に似ていることが明らかになりました。

今回の研究の結果は、耳が聞こえなくても個体発達過程で発声パターンは変化し、通常よりも時間がかかるけれども発声パターンが固定化する時期が訪れることを示しています。つまり、聴覚入力の有無は関係なく,発声可塑性が年齢のある時期で消失することを意味します。このことは、ヒト難聴者の人工内耳手術の時期を考える上でも重要な示唆になると思われます。

さらに、本研究で正常個体と聴覚除去個体間で発達時の発声回数に大きく違いがありませんでした。このことから,発声学習・生成に関わる脳内遺伝子発現の動態制御には、どれだけ聴くかよりも、どれだけ声を出すかが、重要ではないかと考えられます。これは発達過程での学習行動の量に依存して脳内遺伝子発現変化を制御する神経メカニズムが存在することを示唆します。

 

Chihiro Mori and Kazuhiro Wada (2015) Audition-Independent Vocal Crystallization Associated with Intrinsic Developmental Gene Expression Dynamics. The Journal of Neuroscience 35(3):878-889

http://www.jneurosci.org/content/35/3/878.abstract