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小鳥の求愛におけるタップダンス行動を発見!

行動神経学系・相馬雅代准教授の研究室では、大学院生の太田菜央さんが中心となったセイキチョウと呼ばれる小鳥を用いた研究により、求愛における超高速度のタップダンスという極めて興味深い行動を発見しました。この研究成果は北海道大学のプレスリリースで紹介されたのはもちろんのこと、毎日新聞、朝日新聞、ナショナルジオグラフィック、BBCニュースなどでもとりあげられました。以下、太田さんによる解説です。

 

鳥類のコミュニケーション研究は、鳴禽類のさえずり(歌)において盛んですが、多くの場合は雄のさえずり行動に焦点があてられており、さえずりに付随するダンスや、雌側の求愛行動に関しては見過ごされがちでした。本研究では、一夫一妻制で雌雄ともにさえずり踊ることができるルリガシラセイキチョウのダンス行動をハイスピードカメラで撮影することにより、ヒトの目では捉えることができない非常に高速度で複雑なダンス行動を発見しました。この行動は足の動きを見せながら、高速運動によってリズミカルに音を出すという点でヒトのタップダンスと類似しています。またこの行動は止まり木の上で行われるため、止まり木を介した振動も相手に伝えている可能性があります。

本研究の対象種であるルリガシラセイキチョウ(blue-capped cordon-bleu, Uraeginthus cyanocephalus)は社会的一夫一妻制の鳴禽類で、さえずりと同時に巣材をくわえながらジャンプを繰り返すという非常に複雑な求愛行動を雌雄ともに行います(図1、図2)。このとき、ジャンプと同時にパチンパチンという明瞭な音を発します。この音がどのようなメカニズムで発せられているのか明らかにするため、ハイスピードカメラでの撮影を行い、ダンス行動の性差や個体内変動について調査しました。

ハイスピードカメラによる撮影の結果、セイキチョウのダンスには一度跳ねただけに見える行動の中に、複数回足を地面に叩きつけるタップダンスのような行動が含まれていることがわかりました(図1)。このダンス行動の時間変数を定量化し、その個体の性別、その時に歌っていたかどうか、パートナーが近くにいたかどうかでダンスに変化が見られるのかを調べました。

ジャンプのテンポと1回のジャンプあたりのステップ回数に雌雄間での大きな差は見られませんでした。歌っているときとそうでない時の行動を比べると、歌っているときのほうが1回のジャンプに含まれるステップ回数が減少する一方で、歌っている間のジャンプのテンポは速くなることが分かりました。パートナーが同じ止まり木にとまっている時(タップダンスによる振動が直に伝わる時)は、ジャンプのテンポと1回のジャンプあたりのステップ回数の両方が上昇しました。このことから、セイキチョウはより効果的な求愛行動を行うために、パートナーや自分の歌に合わせて、ダンスの動きとそれに伴って発せられる音や振動を調整していると考えられます。

今回の研究では、鳥類のこれまで知られていなかった雌雄間のコミュニケーション行動を発見しただけでなく、さえずり(=発声)が主な求愛手段と考えられていた鳴禽類が、ダンスの視覚情報に加えて発声によらない音や、止まり木を介した振動もコミュニケーションに用いていることが示唆されました。

これまで、鳥類における身体的負荷の大きい派手な求愛行動は、多くの場合雌から雄への一方向的な選り好みによって進化してきたと考えられてきました。また、鳴禽類は学習によって獲得される複雑なさえずりを持つため、ダンスなどさえずり以外の求愛行動は研究上あまり重要視されてきませんでした。ゆえに、複雑なさえずりを持つセイキチョウが精巧なダンスを雌雄で行っていたというのは驚くべき発見です。今後は、発声音(さえずり)と非発声音(タップ音)の組み合わせや、求愛中の他個体との相互作用といった観点からダンスにどのような機能があるのか調べたいと考えています。これにより、複雑なコミュニケーション行動の進化について新たな知見が得られると期待しています。

 

Fig1_japanese図1.(a) ルリガシラセイキチョウ雄の求愛行動の様子。(b) 複数のステップを含むジャンプの様子。(c) 求愛行動について時系列で表したもの。ルリガシラセイキチョウは求愛時に複数のステップを含むジャンプを繰り返し、その間に何度か歌をさえずる。

figure2図2.ルリガシラセイキチョウの近縁種であるセイキチョウ(red-cheeked cordon-bleu, Uraeginthus bengalus)の雄の求愛行動。ルリガシラセイキチョウと同様のタップダンス行動を行う。

 

論文: Nao Ota, Manfred Gahr, and Masayo Soma (2015) Tap dancing birds: the multimodal mutual courtship display of males and female in a socially monogamous songbird. Scientific Reports 5: 16614. (http://www.nature.com/articles/srep16614)