新規C/N栄養バランス制御因子CNI2/ABI1の発見-植物ホルモンシグナル伝達系のnon-canonicalな制御-
形態機能学系の山口教授と佐藤助教の研究室に所属する大学院生・陸宇さんが論文を発表しました。以下著者たちによる解説です。
生物種を問わず,糖(炭素源,C)と窒素(N)は生き物において極めて重要な栄養素です。そして,これら栄養素のバランス「C/N」の維持が生物の最適な成長を支えるために重要となります。特に,大気中のCO2を材料に光合成で自ら糖を合成する植物は,光合成活性を左右する気候条件と土壌の窒素栄養バランスに適格に対応し,自らの代謝系や成長を巧みに制御する「C/N応答」機構を有しています。ただし,その複雑さから,C/Nシグナル伝達制御の分子メカニズムは多くの謎がのこっています。
私達の研究室ではC/N栄養バランスの崩れた条件での独自のスクリーニングを実施し,新規C/N応答異常変異体cni2-D(carbon/nitrogen insensitive 2-Dominant)の単離に成功しました(図,上)。そして,この変異体の分子遺伝学的解析から,原因遺伝子として,タンパク質脱リン酸化酵素であるABI1が同定されました。ABI1は,多様な環境ストレス応答に関わる植物ホルモン「アブシジン酸(ABA)」の受容体と直接結合し,ABAの存在量に応じて下流に広がるABAシグナル伝達系を制御する重要な因子です。ただし,興味深いことに,通常条件とC/Nストレス条件において植物体内のABA含量に大きな差は検出されませんでした。その一方で,特定のABAシグナル伝達経路の下流マーカー遺伝子の発現は,確かにC/Nにより変動し,cni2-D変異体においてC/N非感受性を示しました。つまり,C/N栄養シグナルは,既存のABA合成量に依存したABAシグナル制御系とは独立した,non-canonicalな制御系を介してABAシグナルとクロストークすること,そこにはABI1の機能が重要であることが明らかとなりました(図,下)。
最近,他の研究グループからもABAシグナル伝達系が多様な環境シグナルと直接クロストークし,植物のストレス適応に関与することが報告されています。本研究の進展は,植物の環境シグナル統御システムの新たな一面を明らかにするものとして期待されます。