新たな多機能性ゲノム配列を発見:プロモーター?エンハンサー?
生殖発生生物学系・木村研究室の栗原美寿々さんが論文を発表しました。以下、栗原さん本人による解説です。
私たちの体は約60兆個の細胞から構成されています。ですが細胞はみな同じではなくそれぞれ特別な特徴を有しており、その結果、私たちの体には様々な組織や器官が形成されています。では、どのようにして細胞は異なる特徴を手に入れるのでしょうか?その答えは私たちの体の設計図であるゲノムにあります。ゲノムはすべての細胞に含まれていますが、その”使われ方”は細胞により異なっています。”使われ方”というのは具体的に言うと、”どの遺伝子が使用されるか”ということになります。遺伝子の発現は、すぐ上流配列にあるプロモーター配列と、その働きを活性化するエンハンサー配列などによって調節されています。これまで、私たちの体でこれらの配列は互いに重複することなくゲノム上に存在していると考えられてきました。しかし、今回私たちの研究によって、プロモーターでありながらエンハンサーとしても機能する多機能性ゲノム配列が哺乳類ゲノムに存在することが明らかになりました。
マウスの精巣特異的に発現するTcam1遺伝子の調節機構について解析を行ったところ、私たちはヒトとマウス間で保存されたノンコーディング配列(CNS1)がTcam1遺伝子のエンハンサーとして機能することを明らかにしました。さらに興味深いことに、CNS1配列は新規の精巣特異的な長鎖ノンコーディングRNA (lncRNA-Tcam1)とTcam1遺伝子に隣接するSmarcd2遺伝子のプロモーターとしても機能していることが判明しました。このことから、CNS1配列はマウス精巣においてTcam1遺伝子のエンハンサーとしてだけではなく、Smarcd2遺伝子とlncRNA-Tcam1の両方向プロモーターとしても機能していることが明らかになりました。
近年、大規模解析技術の発達により、哺乳類ゲノムからたくさんのノンコーディングRNAが転写されていることが明らかになっています。そのため、1つの配列が1つの機能しか持たないとする従来の考え方では、哺乳類ゲノムの複雑性を説明することは難しくなっています。今回の報告がゲノムの複雑性を理解するための新たな突破口として役立てられることを私たちは期待しています。
Kurihara M., Shiraishi A., Satake H., and Kimura A.P. (2014) A conserved noncoding sequence can function as a spermatocyte-specific enhancer and a bidirectional promoter for a ubiquitously expressed gene and a testis-specific long noncoding RNA. Journal of Molecular Biology 426: 3069-3093
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022283614003349