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甲殻類タナイス目で糸産出能が複数回独立に進化したことを示唆する発見

甲殻類の糸の利用に関する論文を発表、公表
タナイス目に属する小型甲殻類の研究を続けている角井敬知博士(多様性生物学講座I所属)が、タナイス類の糸利用に関する形態学的研究の成果を論文として公表しました。
節足動物による糸の利用は昆虫類やクモ類などにおいて有名ですが、水生甲殻類にも糸を利用するグループが知られています。タナイス目もそのような動物群のひとつで、糸を主に巣作りに用いています。タナイス目内には4つのグループが存在していますが、長い間、糸の利用は2グループに限られ、かつすべての糸利用種は同様の糸産出器官を備えていると考えられてきました。しかし近年、上記2グループに属さない2種において、生時の観察から糸利用の可能性が示されました。これら2種が本当に糸を利用していた場合、それらの糸産出器官の形態は、タナイス目における糸産出能力の進化史を明らかにするうえで重要であると考えられます。しかし現在までに2種の糸産出器官に関する研究はなされていませんでした。
今回角井博士は、上記2種に近縁な種(Phoxokalliapseudes tomiokaensis)を用い、生時の観察、走査型電子顕微鏡による外部形態および巣の観察、組織切片の観察による内部形態の観察などを行い、本種の糸利用と糸産出器官について研究を行いました。その結果、本種は糸でできた管状の巣に住んでおり、糸の産出には脚の内部に存在する腺構造が関係していることが示唆されました。この形態的特徴は、これまで知られていた糸産出機構とは大きく異なるものであり、このことから、タナイス目における糸産出能力は独立に複数回進化した可能性が考えられます。今後、より多くのタナイス類を対象とした詳細な形態観察、行動観察、糸組成の解析、系統解析が進むことで、タナイス目における糸産出能力の進化史の解明が期待されます。
以上の研究成果は、多様性生物学講座III出身の蛭田千鶴江博士との共同論文として、英文誌Journal of Morphologyに掲載されています。なお本研究の一部は公益財団法人水産無脊椎動物研究所からの助成を受けて行われました。
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A:Phoxokalliapseudes tomiokaensisのオス個体。B:第2番目の脚の蛍光顕微鏡像(矢頭が分泌腺)。