形態機能修士1年生の青山翔紀くんが筆頭著者論文が出ました。
青山くんからの紹介コメントです。
大気中CO2と窒素栄養のバランスが「植物の老化」制御に重要であることを解明
偏食や過食による体内栄養バランスの乱れが原因となり引き起こされる「メタボリックシンドローム」は,現代人の大きな関心事です。同様に,植物が生存するうえでも栄養のバランスを保つことは重要になります。特に,炭素源(C)である糖と主要栄養素である窒素(N)の獲得は重要であり,そのバランス「C/N」は植物の発生・成長を大きく左右する要因の1つになります。地球環境問題として注目される大気CO2濃度の上昇は,植物の食事・体内栄養バランスに大きな影響を与えることが予想されます。
私たちはこれまでに,培地中の糖・窒素濃度を変化させた培地を用いた実験から,新規のC/N応答制御因子としてユビキチンリガーゼATL31を単離し,機能解析を行ってきました(Sato et al., Plant J. 2009,2011)。ただし,自然条件では当然,土に砂糖は含まれていません。そこで本研究では,大気中CO2濃度を制御可能な人工気象機を作製し,より生理的条件下でのC/N応答解析とATL31の機能解明を目指しました。その結果,窒素栄養が十分な条件で高CO2処理をした場合は,植物のバイオマスが増大する一方で,窒素栄養が不足した条件下では,高CO2処理により生育が制限され,さらに葉の黄化やアントシアニンの蓄積といった「植物の老化」が促進されることが分かりました(図,上部)。また,このような老化の進行はATL31過剰発現体(OX)では遅延し,逆に機能欠損変異体(KO)ではより顕著になったことから,ATL31は成熟葉でのC/Nシグナル制御を介して葉の老化制御に関与することが示唆されました(図,下部)。
植物が大気中CO2から合成する糖は,私たちヒトを含めた生態系を形成する全ての消費者にとっての炭素源であり,その効率的な吸収・代謝過程の解明は,食料問題の解決や工業的な資源としての植物バイオマスの増産に大きく貢献することが期待されます。
原著論文にはこちらからアクセスできます。
Aoyama S, Huarancca Reyes T, Guglielminetti L, Lu Y, Morita Y, Sato T* and Yamaguchi J. (2014) Ubiquitin ligase ATL31 functions in leaf senescence in response to the balance between atmospheric CO2 and nitrogen availability in Arabidopsis. Plant Cell Physiol. 55(2): 293-305.