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数理科学セミナー:細胞死の理論と自律性(姫岡 優介)
Event Date: Feb 16, 2026
Time: 2026年2月16日 16時30分 ~ 18時00分
Place:北海道大学 電子科学研究所 中央キャンパス総合研究棟2号館5階講義室(HMMCセミナー(https://mmc01.es.hokudai.ac.jp/els/seminar)との合同セミナー)
Speaker:姫岡 優介(東京大学)
Title:細胞死の理論と自律性
Abstract:細胞の死と生死の境界を理解することは、生物学における根本的な課題であり、非常に重要なテーマである。本講演では、「細胞の死」を数理科学としてどのように理解することができるのかということを、微生物細胞の死に着目して議論したい。微生物細胞の細胞死の研究は、経験的に知られている細胞死マーカーなどに基づいて判定され、関連する生化学プロセスを駆動する分子メカニズムを特定することによって進展してきた。しかし、そもそも死とは何か、それはどのように「定義」できるのかといった議論はなあまりなされていない。また、死細胞染色や代謝活性測定など頻繁に用いられる死細胞アッセイは互いに異なる細胞死判定結果をもたらし得ることが近年報告されるようになり、「何を以て『死』と呼ぶか」を議論する必要性が高まっている。本研究で我々は「遺伝子発現量や外部栄養濃度をどのように制御しても、あらかじめ定めた『生きている状態の代表点』に戻れない場合は『死んでいる』と呼ぶ」という定義を提案した。植物の種は一見生化学的活性がないので「死んでいる」ように見えるが、水を与えることで芽吹く。この「水を与える」ような操作が存在するか否かを以て細胞の生死を決めよう、というのが本研究での提案である [1]。もちろん、「どのように操作しても細胞は活性を取り戻せない」といったことを実験的に証明することは不可能であるが、数理モデルであれば原理的には可能である。我々は代謝反応系の数理モデルにおける符号制約付き大域非線形制御可能性を評価する手法“Stoichiometric Rays”を開発し、「どのように酵素量と外部栄養濃度を制御しても『生きている状態の代表点』へと制御することができない状態」を計算、代謝数理モデル[2]の「生きている状態」と「死んだ状態」を分つ超平面、Separating Alive and Non-life Zone (SANZ; 三途) Hypersurfaceの定量に成功した。本講演では、理論の概要、三途超平面の定量化とその生物学的解釈を概説する。また、我々の研究[3]によって、上述の意味での「死」を示さないモデルクラスを一部明らかにすることができた。これらのモデルが「死」を示さないことと、生命の自律性についての関係も議論したい。
[1] Himeoka et al., 2024, Phys. Rev. Res. 6 (4): 043217.
[2] Boecker et al., 2021, Mol. Syst. Biol. 17 (12): e10504.
[3] Himeoka et al., 2025, arXiv:2505.06834S
(世話人:中野 雄史)