研究トピックス

RNA指令型DNAメチル化によるトランスポゾン転移制御機構を解明

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形態機能学系の伊藤秀臣先生の研究グループは、シロイヌナズナを用いて、DNAメチル化によるトランスポゾンの転移制御についての新しい知見を発表しました。この論文は博士課程1年生の牛 小蛍さんの研究成果であり、北大のプレスリリースでも掲載されています。以下、伊藤先生による解説です。

転移因子(トランスポゾン)はあらゆる生物に存在する“動く遺伝子”であり、トランスポゾンの転移はゲノムに悪影響を与える可能性があります。そのため、トランスポゾンの転移制御は、宿主にとって自身のゲノムの安定性を守るために重要です。ほとんどのトランスポゾンはDNAのメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティックな修飾により転写が抑制されているため、その転移制御機構の詳細は明らかになっていませんでした。シロイヌナズナにおける熱活性型レトロトランスポゾンONSENは37℃の熱ストレスで転写が活性化し、染色体外DNAを産生します。siRNAを介したトランスポゾンの転写制御機構であるRNA-directed DNA methylation (RdDM)経路の変異体では、熱ストレスによりONSENの世代を超えた転移が観察されました。DDR複合体は、DRD1、DMS3、RDM1からなり、RdDM経路の重要な構成要素となっています。DDR複合体はRNA polymerase V (Pol V)に依存する転写に必要で、Pol Vの上流で機能し、Pol Vの活性を調節し、クロマチンへのPol V結合を安定化させることが知られています。この研究では、レトロトランスポゾンのサイレンシングのメカニズムにおけるDDR複合体の役割を明らかにしました。

本研究では、DDR複合体によるONSENの活性制御について解析しました。DDR複合体のいずれかのタンパク質の機能を欠損させると、ONSENの転写量が上昇しました。48時間の熱ストレス処理をしたDDR複合体の三重変異体でONSENの世代を超えた転移が見られました。しかし、DDR複合体の構成要素であるDRD1、DMS3、RDM1それぞれの変異体では、drd1のみでONSENの転移を観察されました。このことから、DRD1がDDR複合体依存的なONSENの転移抑制に重要な役割を担っていることが示唆されました。

今回の研究結果から、DRD1がDDR複合体依存的なONSENの転移抑制に重要な役割を担っていることを示唆されました。今後は,ONSEN のサイレンシング機構におけるlncRNAとsiRNAの役割についてさらに研究していきたいと考えています。

図1 RdDM経路はONSEN領域にDNAメチル化を誘導することにより、ONSENの活性を抑制する。野生型(左)でONSENの転移は見られないが、DRD1の欠失(drd1変異体:右)ではRdDMプロセスが損なわれて、ONSENの転移が引き起こされた。

論文名 Regulatory mechanism of a heat-activated retrotransposon by DDR complex in Arabidopsis thaliana(シロイヌナズナにおけるDDR複合体による熱活性型レトロトランスポゾンの制御機構)

著者名 牛 小蛍1,陳 露1,加藤 敦之2,伊藤 秀臣2(1北海道大学大学院生命科学院,2北海道大学大学院理学研究院責任著者)

雑誌名 Frontiers in Plant Science(オープンアクセス科学ジャーナル)

DOI doi:10.3389/fpls.2022.1048957

公表日 2022年12月21日(水)(オンライン公開)

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