研究トピックス

百年の眠り 眠れる森の美女の教え新しい細胞膜貫通型糖タンパク質を発見、植物の成長を操る新技術開発に期待

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百年の眠り 眠れる森の美女の教え

~新しい細胞膜貫通型糖タンパク質を発見、植物の成長を操る新技術開発に期待~

北海道大学大学院理学研究院の藤田知道教授、テイ ウイコック助教、アーリヤーラセン メナカー博士研究員、同大学院生命科学院博士後期課程のシン プレルナ氏、レン ジュンリン氏らの研究グループは、コケ植物の細胞壁に存在する「眠れる森の美女(SB、Sleeping Beauty)」と名付けた新しい細胞膜貫通型糖タンパク質の発見に成功しました。北海道大学のプレスリリース記事(https://www.hokudai.ac.jp/news/2022/12/post-1140.html)として公開されています。

また関連ニュースが、12月19日(月)のNHK「ほっとニュース北海道」(18時10分〜19時)で紹介される予定です。

私たちヒトなどの動物は、手や足の数など厳密に組織や器官の数が決められた状態で生まれてきます。一方で植物は、種子から生まれたての時には子葉(イネなどの単子葉植物では1枚、アサガオなどの双子葉植物では2枚)と茎、根をわずかにもった状態で生まれてきますが、その後、外界の変化を常に感じながら、成長と成長抑制を繰り返し、葉や枝、また根の数を増やし大きく育っていきます。また同じ種類の植物でもその年の気候や場所の環境の違いに応じて葉や枝の数が全く異なる柔軟な形づくりをしています。こうした悪環境や好環境など周囲の生育環境に応じて、成長したり成長を停止したりを繰り返しながら形作りをする植物特有の制御メカニズムはまだ多くの点でよく分かっていません。

研究グループは、コケ植物を用いこうした植物特有の成長や形づくりに重要なタンパク質を探索し、細胞膜を貫通して存在する新しい糖タンパク質の同定に成功しました。この糖タンパク質は顕著な細胞休眠効果を持っていたため、「眠れる森の美女」と名付け、さらに働きを詳しく調べたところ、細胞表面から細胞内に存在するオーキシン情報伝達に関わるARFC2と呼ばれる転写因子にシグナルを伝え、さらに細胞壁の性質を調整する酵素の働きを制御することが分かりました(図)。

また、この糖タンパク質の量や働きの変化に応じて細胞壁の性質が変化し、ひいては細胞の性質が変化し、コケ植物の茎葉体と呼ばれる新しい組織の成長が制御されることが分かりました。このように細胞膜上で機能する「眠れる森の美女」タンパク質は、周囲の環境の変化などを感知し、こうした細胞表面からのシグナルを細胞内、そして核内に伝えることで、再び細胞壁の性質を変え、植物の成長や形作りを制御しているという新しい仕組みが明らかになりました。

眠れる森の美女といえば、妖精の悪巧みの犠牲になる弱々しいキャラクターを想像しがちです。しかし、コケ植物で発見されたSBタンパク質は、細胞の運命や成長を思い通りにコントロールすることができる、力のあるヒロインでした。

人類の永続的な発展のためには植物との共存は欠かせません。SBの働きを理解することで、植物の成長や形作りを自在に操るための新しい方法が模索できると期待されます。植物に特徴的な成長や形作りの制御の理解は、環境の変化に応じた有用作物の健全な栽培技術への応用も期待できます。

発表論文:Surface-localised glycoproteins act through class C ARFs to fine-tune gametophore initiation in Physcomitrium patens(細胞表面に局在する糖タンパク質はARF Cタンパク質の働きを介してヒメツリガネゴケの茎葉体の形成を制御する)

Ooi-kock Teh, Prerna Singh, Junling Ren, Lin-tzu Huang, Menaka Ariyarathne, Benjamin Prethiviraj Salamon, Yu Wang, Toshihisa Kotake, and Tomomichi Fujita, Development (2022) 149 (24) : dev200370. (DOI: https://doi.org/10.1242/dev.200370)