単子葉植物の茎頂の維持と葉の発生を制御する遺伝子を発見
形態機能学系の楢本先生は東京大学、東北大学、国立遺伝学研究所、吉備国際大学と共同で、イネの葉や茎頂分裂組織の発生・成長に重要な遺伝子を発見し、植物生理学の専門誌であるPlant and Cell Physiologyに発表しました。以下、楢本先生による解説です。
葉は、光合成により二酸化炭素を固定し、デンプンなどの糖や酸素を合成する器官です。そのため、葉の発生・成長メカニズムを理解することは、植物生理学だけでなく、農学的にも重要な課題の一つとされています。葉の発生・成長メカニズムについては、これまでにシロイヌナズナ・トマトなどの、双子葉植物を用いた研究が盛んに行われ、理解が進んできました。しかしながら、単子葉植物#1の葉の発生メカニズムについては、これまでほとんど明らかになっていませんでした。
我々のチームは、イネを突然変異処理して、葉の形態が異常になる突然変異体を単離しました。この突然変異体は、葉身#2が欠損し、細い葉鞘のみが形成される#3ことから、ndl1 (narrow and dwarf leaf1) 変異体と名付けられました(図A)。ndl1変異体の原因遺伝子は、AP2型転写因子をコードしており、シロイヌナズナのENHANSER OF SHOOT REGENERATION1(ESR1)/DORNRÖSCHEN(DRN)のオルソログでした。シロイヌナズナのESR1/DRNは、子葉の形成、オーキシンのシグナル伝達、カルスからのシュート再生といった過程に働くことが知られている遺伝子です。イネndl1変異体でもシロイヌナズナの場合と同様に、葉身の形成不全、オーキシンのシグナル伝達異常に加え、カルスからのシュート再生能の低下といった表現型が観察されました。この結果は、NDL1とESR1/DRNの機能が単子葉植物と双子葉植物の間で保存されていることを示唆するものです。また、イネndl1変異体では、これらの表現型に加え、茎頂分裂組織を維持できなくなる表現型もみられました(図B-E)。このときNDL1遺伝子は、異常がおこる茎頂分裂組織では発現しておらず、隣接した発生初期の葉原基で限定的に発現することも明らかになりました(図F,G)。これらの発見から、NDL1は葉原基から細胞非自律的に作用し、茎頂分裂組織の活性の維持に関わることが示唆されました。これまでにシロイヌナズナesr1/drn変異体では、茎頂分裂組織は正常に機能することが明らかにされています。したがって、単子葉植物は、双子葉植物とは異なる独自の茎頂分裂組織の維持機構を進化の過程で獲得したことが明らかになりました。
世界三大穀物と呼ばれるコムギ、イネ、トウモロコシはいずれも単子葉植物に属します。本研究により得られた知見は、葉身の発生・成長の改変といった育種技術の開発に寄与する可能性があります。
#1イネ、コムギ、トウモロコシ、タマネギ、ネギなど、1枚の子葉を持つことで特徴づけられている植物の一群。イネ、コムギ、トウモロコシは世界三大穀物とよばれ、我々の重要な食糧源となっている。
#2イネの葉は葉身・葉鞘という2つの器官から構成される。
#3ndl1変異体では、第1葉〜第3葉にかけて葉身が欠損する。
(A) ndl1突然変異体の概観
第1葉、第2葉、第3葉では、葉身が欠損する表現型がみられる。右上に、野生型とndl1変異体の第2葉を示す。野生型では、葉身と葉鞘、そして境界領域に葉耳、葉舌を分化させるが、ndl1変異体では、葉身、葉耳、葉舌が欠損し、葉鞘のみになっている。
(B-D) ndl1変異体の茎頂分裂組織の形態
ndl1変異体では、野生型にみられるドーム状の茎頂分裂組織が消失している。(C)と(E)は、それぞれ(B)と(D)の四角形の部位の拡大図。
(F and G) NDL1遺伝子の発現パターン
栄養成長期と胚発生のステージのいずれにおいても、NDL1遺伝子は茎頂分裂組織では遺伝子発現せずに、発生初期の葉原基特異的に遺伝子発現する。
*赤色矢印は、茎頂分裂組織を示す。黒色矢尻は発生初期の葉原基を示す
発表論文:Andree S Kusnandar, Jun-Ichi Itoh, Yutaka Sato, Eriko Honda, Ken-ichiro Hibara, Junko Kyozuka, Satoshi Naramoto (2021) NARROW AND DWARF LEAF 1, the Orthologue of Arabidopsis ENHANCER OF SHOOT REGENERATION1/DORNRÖSCHEN, Mediates Leaf Development and Maintenance of the Shoot Apical Meristem in Oryza sativa L. Plant. Cell Physiol. (in press)(https://doi.org/10.1093/pcp/pcab169)