研究トピックス

根の再生メカニズムを解明盆栽作りに科学のメスを入れる

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形態機能学系の綿引雅昭先生のグループは本学大学院生の徐冬暘さんを中心として、帝京大学理工学部・朝比奈雅志准教授の研究グループとの共同研究を行いました。その結果、「植物のたくましさ」でもある根の再生過程についての分子メカニズムを明らかにして論文発表しました。この成果は徐さんの博士論文の研究成果が論文として発表されたもので、北大のプレスリリースでも紹介されました。以下、綿引先生による解説です。

「植物の根は切っても新しい根ができる」ことは、経験的に広く知られています。このような根切りによる傷害を克服することが「植物のたくましさ」のひとつなのですが,これまで土の中で目視できない根の傷害応答は注目されておらず、根が再生するメカニズムについての研究はありませんでした。そこでモデル植物のシロイヌナズナを使った研究をおこないました。その結果、根を切ると新しい根が作られると同時に、すでにある根の成長も促進されることがわかりました。また、根の再生には、11種類あるオーキシン合成遺伝子YUCCAのうちYUCCA9が特に重要な働きを示すことを、遺伝子発現・阻害剤・突然変異体の解析から明らかにしました。これらのことから、根切りが根のオーキシン量を増やしていると予想されました。

そこで帝京大学理工学部・朝比奈雅志准教授の研究グループと共同研究を行い、根切りによって実際に根のオーキシン量が増加していることを確認しました。さらにオーキシンを移動させる極性輸送も、根切りの克服に重要な役割を果たしていることがわかりました。世界中で親しまれている日本伝統の園芸芸術、盆栽作りでは慎重に根の剪定(根切り)を行います。根切りされた植物は結果として水や養分を効率よく吸収できる若い根を限られた空間(鉢)で再生し、健全かつ小さな植物として盆栽になります。本研究成果は盆栽作りの過程で起こると考えられる分子メカニズムの一端を明らかにしました。根の剪定技術は農業生産性の向上にも利用されており、本研究成果は今後の農業技術の進展にも寄与すると考えられます。

図1 無処理のシロイヌナズナと生育途中で主根を切ったシロイヌナズナの様子(左図)及び側根数、側根の成長速度のグラフ(右図)。無処理の方が主根は長くなるが、根切りをした方が側根が多く、成長速度も速くなっていることがわかる。(左図は処理後4日目の写真。赤矢印は主根を切った位置)

図2 本研究で明らかになったメカニズム。根切りをすることでYUCCA9遺伝子が活性化し、オーキシンの合成等を経て、側根が作られたり発達したりする。ただし、根切りがどのようなシグナルを引き起こしてYUCCA9を活性化させているかはまだ同定できておらず、今後の研究が待たれる。

発表論文: Xu D, Miao J, Yumoto E, Yokota T, Asahina M, Watahiki M. (2017) YUCCA9-mediated Auxin Biosynthesis and Polar Auxin Transport Synergistically Regulate Regeneration of Root Systems Following Root Cutting. Plant and Cell Physiology 58: 1710–1723.(https://academic.oup.com/pcp/article/4101880/YUCCA9-mediated-Auxin-Biosynthesis-and-Polar-Auxin