研究トピックス

キノコショウジョウバエ食性の進化過程

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すでに北大のプレスリリースでも公開されています通り、多様性生物学・進化学系の加藤徹先生の研究グループは、大学院生の張揚さんを中心として行った研究によって、ショウジョウバエの食性進化過程について興味深い発見をし、論文発表を行いました。今回、加藤先生が学科ホームページ用に解説文を寄せてくださいましたので、以下に掲載します。

 

ショウジョウバエ科はこれまで4000種以上が知られており,その食性は樹液食、果物食、草本食、キノコ食と多岐にわたります。そのうち、キノコ食のショウジョウバエとしては、Hirtodrosophila属、Mycodrosophila属、Zygothrica属、およびDrosophila 亜属のquinaria種群とよばれるグループが有名です(図1)。しかし、これらのキノコ食ショウジョウバエが、どのような進化の過程を経てキノコ食形質を獲得したのかは不明です。

図1.Hirtodrosophila trilineata(左)。ヒラタケによく集まる(右)。

 

本研究は、キノコ食ショウジョウバエ含む52種のショウジョウバエについて、24遺伝子のDNA塩基配列を新たに決定しました。そして、これに既知の配列情報をあわせて分子系統樹を構築し、「属」、「亜属」間の系統関係を推定しました。また、解析に用いたショウジョウバエ種の食性を系統樹と対比させることで、彼らの祖先がどのような食性だったかを推定しました。

その結果、得られた系統樹において、キノコ食のショウジョウバエは、Hirtodrosophila属、Mycodrosophila属、Zygothrica属からなる系統と、Drosophila 亜属quinaria種群からなる系統の2つにわかれ、キノコ食の形質はこれら2系統で独立に生じたと推定されました。そして、Hirtodrosophila属、Mycodrosophila属、Zygothrica属の共通祖先では、果実食からキノコ食の「専門家(スペシャリスト)」へと食性が変換した一方、Drosophila 亜属の祖先では、果実に加えキノコも利用する「何でも屋(ジェネラリスト)」へと食性が拡大したと推定されました(図2)。

図2.キノコ食ショウジョウバエの系統関係およびキノコ食の進化過程の推定。Hirtodrosophila属、Mycodrosophila属、Zygothrica属の共通祖先では、果実食からキノコ食へと食性が変換した。一方、Drosophila 亜属の祖先では、キノコを追加利用する方向に食性が拡大した。

 

今回の成果は、ショウジョウバエのキノコ食形質が2つの系統で独立に生じ、かつその獲得様式も系統間で異なることを見出したものです。

 

発表論文:Yang Zhang, Takehiro K. Katoh, Cédric Finet, Hiroyuki F. Izumitani, Masanori J. Toda, Hide-aki Watabe, Toru Katoh (2021) Phylogeny and evolution of mycophagy in the Zygothrica genus group (Diptera: Drosophilidae). Molecular Phylogenetics and Evolution 163: 107257. (doi: 10.1016/j.ympev.2021.107257