ゴキブリはメス集団だけで生き延びる
行動神経生物学系の水波誠先生と大学院生である加藤巧さんらは、電子科学研究所の西野浩史助教らとの共同研究で、ゴキブリの単為生殖に関する新しい発見を論文発表しました。以下は加藤さんによる解説です。
一部の動物には、オスのいない環境下ではメスだけで繁殖するという、条件的単為生殖を行うものがいます。ワモンゴキブリ(国内では主に西日本に多く生息し、温暖化に伴い東日本にも定着しつつある)もオスがいないと単為生殖を行いますが、有性生殖と比べて繁殖効率が悪いことが知られていました。ゴキブリは集団で生活することで効率よく増殖することが知られています。本研究では、ワモンゴキブリのメスを集団で飼育することによる単為生殖への影響と単為生殖を引き起こす環境要因について調べました。
まず、1~5匹の成虫になりたての未交尾メスを、小さめの容器(450 cc)に入れて、密度効果について調べました。メスが複数いる容器では、単為生殖による卵鞘(複数の卵の入ったカプセル)の形成が有意に早くなり、さらに形成時期が同調することがわかりました。一方、交尾できないオスと同居させた場合に卵鞘の形成は促進されず、メスのみであっても触角がない場合には促進効果が弱まることがわかりました。このことから、メスが触角で自らの周囲の他個体がメスしかいないことを認識することが単為生殖促進に重要であることが示唆されました。また、別の実験でメスだけの集団を飼育し続けたところ、単為生殖だけで繁殖して世代交代を繰り返し、集団の維持・拡大が可能であることがわかりました。
他種の小型のゴキブリには単為生殖だけで世界中に分布しているものもいます。今回の研究結果は、大型種であるワモンゴキブリもたとえメスだけの集団であっても、新天地で単為生殖によって繁殖し、分布域を拡大している可能性が示唆されます。ゴキブリのさらなる拡散を防ぐ為には、メスの駆除が必要不可欠です。雌雄を誘引する集合フェロモンの特定が待たれるところです。
発表論文: Katoh K, Iwasaki M, Hosono S, Yoritsune, A, Ochiai M, Mizunami M, Nishino H. (2017) Group-housed females promote asexual ootheca production in American cockroaches. Zoological Letters 3:3.(https://zoologicalletters.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40851-017-0063-x)