研究テーマ | 私の研究テーマは、昆虫をモデル系とした動物の行動と脳の解明です。昆虫の学習のしくみの解明を通して、昆虫の脳の働きが哺乳類の脳とどこまで共通かを明らかにすることを目指しています。 |
研究分野 | 神経行動学, 神経科学, 脳科学, 動物行動学, 学習・記憶, 神経生理学, 神経解剖学, 動物心理学 |
キーワード | 昆虫, 微小脳, 学習, 記憶, 行動, 脳進化, キノコ体, 嗅覚, 視覚, 古典的条件付け, オクトパミン, ドーパミン, 予測誤差学習, 報酬, 罰, 習慣形成, フタホシコオロギ, ワモンゴキブリ |
研究紹介
私の研究目標は、昆虫の脳「微小脳」が、私たちヒトを含む哺乳類の巨大な脳とどのように異なり、どのような共通点を持つのを明らかにすること、またそのような研究を通して、動物の脳の進化についての新たな洞察を得ることです。具体的には、昆虫がもつ高度な匂いや視覚の学習能力に着目し、そのメカニズムを分子、細胞レベル、脳システムのレベルで調べています。研究手法としては、電気生理学、神経解剖学、行動薬理実験、RNA干渉による遺伝子発現阻害法、CRISPR/Cas9法を用いた遺伝子導入法など、様々な実験技術を複合的に用いています。
私達は、コオロギの忌避条件付けにはドーパミン作動性ニューロンが、報酬条件付けにはオクトパミン作動性ニューロンが関わることを明らかにしました。これは、昆虫の脳には、学習過程を支配する「報酬系」、「罰系」が存在することを示唆するものです。さらに、記憶の読み出しには、オクトパミンやドーパミンニューロンの活性化が必要であることを明らかにしました。これは、昆虫の学習行動の遂行の際には「報酬」や「罰」の情報を想起が必要であることを初めて示したものです。さらに私たちはコオロギに学習訓練を繰り返すと学習行動の「自動化」が起こることを発見し、その神経基盤について調べています。
さらに、私たちはコオロギの学習が動物が予測する報酬と実際にもらえる報酬の誤差、すなわち「報酬予測誤差」に基づいて起こることを明らかにしました。これは昆虫の学習が人を含む哺乳類の学習と同じ計算原理で起こることを示しており、その神経機構の解明が待たれます。
最近私たちは、コオロギには報酬(水)と匂いの結びつきを仲間の行動から学ぶ社会学習の能力があることを発見しました。今後、オクトパミンやドーパミンニューロンが、社会学習にどのように関わるかを調べたいと考えています。
昆虫の脳のなかで最も興味深い領域の1つが、キノコ体と呼ばれる高次連合中枢です。私達は、ゴキブリが「パブロフの犬」と同様な唾液分泌の条件付けを示すこと、また、この条件付けにキノコ体が関わることを明らかにしています。現在、学習に伴うキノコ体ニューロンの活動変化について調べています。
代表的な研究業績

学位 | 理学博士 |
自己紹介 | 私の興味は昆虫を材料とした脳と行動とその進化の解明ですが、昆虫の優れた脳機能の応用を目指した企業との共同研究にも関わってきました。企業の方もお気軽にお問い合わせください。私の研究に関しては、研究室ホームページや、下記の著書も参考にしてください。水波誠著、昆虫—驚異の微小脳(中公新書)2006年。 |
学歴・職歴 | 1980年 九州大学理学部生物学科 卒業 1982年 九州大学理学研究院生物学専攻 修士課程修了 1984-1993年 九州大学理学部助手 1993-2002年 北海道大学電子科学研究所 助教授 2001-2009年 東北大学大学院生命科学科 助教授 2009-2010年 北海道大学大学院先端生命科学研究院 教授 2010年- 現職 |
所属学会 | 日本動物学会, 日本比較生理生化学会, International Congress of Neuroethology, American Society of Neuroscience |
居室 | 理学部5号館 5-911室 |
備考 | 行動、脳、進化をキーワードに、新しい研究領域の開拓を目指しています。そのような研究に興味がある学生の研究室への参加を歓迎しますので、気楽に問い合わせてください。 |