物質の常識を化えたい

わずかな刺激でがらりと性質が変わる結晶のメカニズムを探る

加藤 昌子 教授 KATO Masako/錯体化学研究室

ソフトクリスタルとは結晶性を保ちながら
弱い刺激で発光したり、物性や磁性が変わる物質

結晶というのは、分子や原子が三次元的に規則正しく配列している状態の物質で、ダイヤモンドのように通常はとても硬い固体をイメージすると思います。ダイヤモンドと同じ炭素でできた同素体でも、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブなど結晶構造が違うことで性質が全く異なることは良く知られています。ですが、ダイヤモンドは炭素同士の結合が強く、簡単にはグラファイトになったりはしません。このような結晶をハードクリスタルと分類します。

ハードクリスタルは結晶構造を安定状態AからBに変化させるには大きなエネルギーが必要だが、ソフトクリスタルはわずかなエネルギーでBの安定状態に乗り越えられる

それに比べて、私たちの研究対象は、ちょっとした外部刺激で性質を変えてしまうもので、それらをソフトクリスタルと呼んでいます。その名の通り「柔らかい結晶」のことですが、ぐにゃぐにゃな柔らかい状態を指しているのではなく、蒸気、機械的な刺激、光や熱など弱い刺激で、三次元構造を保ちながらも結晶の並び方がガラリと変わってしまう物質を指していて、中でも磁性が変化したり、色や発光色が変わるような「えっ?そんなことできちゃうの?」という常識を変えてしまう物質を研究しています。

ソフトクリスタルの特長と例

このようなソフトクリスタルを研究するため、「新学術ソフトクリスタル※1」という日本全国の大学・研究機関・企業に属する110名を超える研究者で構成される大きな研究プロジェクトが動いています。私はこのプロジェクトの研究代表者として多くの研究者のみなさんと共に、ソフトクリスタルの構造と生成過程を解明し、構造変化した物質の特性や機能を探り、新しい基礎研究領域として確立させようとしています。

※1 研究期間: 平成29年度〜令和3年度

工業、薬など様々な分野に応用されている白金錯体
古くから盛んに研究されてもなお謎だらけなメカニズムが魅力

私たちの研究室では金属錯体、とりわけ集積発光性の白金錯体に長らく注目しています。白金の錯体は結晶中で配列することによって発色するだけでなく、刺激によって発光の色が変わるものがあります。例えば、触れる化学物質の蒸気の種類によって発光色が変わったり、触ったりすり潰したりすることで発光色が変わるものもあります。このような物質は環境の化学物質や接触や圧がかかった痕跡の検知に使えるかもしれません。ですが、まずはどうしてこのような現象が起きるのか、メカニズムそのものの解明が重要だと私たちは考えています。

合成した発光性金属錯体の薄膜試料の作成をしているところ

発光するということは、結晶が励起状態になってためで、結晶構造が変化することで、原子間や分子間の距離や角度が微妙に変わり、それが発光色を変えていると考えています。例えば赤かった結晶が水蒸気に触れることで水分子が入り込み、分子配列を少し歪ませることで黄色く発光色を変えてしまい、乾くとまた元の発光色に戻るという現象があります。このような発光色との相関関係を調べるためには、結晶構造の歪みを精密に測定することが重要になります。

水蒸気という刺激だけでなく、多種多様な刺激によってどのような変化が結晶構造にもたらされるのか、探索する世界は広がっています。

合成した物質の結晶構造を実験室にある「単結晶X線構造解析装置」で簡単に調べることができ、数時間でピコメートル(10-12m)の精度で結晶構造を見ることができるように

Message

理学系の人たちはこんな面白い現象、面白い物質があるんですと提案する立場で、応用の人たちがそれを使ってこんなことができるんだよって見つけてくれる。有機ELも昔に見つけられていたイリジウムの錯体が光ることを、たまたま光る材料を探している人が見つけて「これは使える材料だ」ということになり大きく発展しました。何の役に立つか今はわからなくても見つけた新しい現象を提案し続けることが大切だと思っています。ゼロから1を生むクリエイティブな研究に挑戦する若者に期待します。