物質依存を化えたい

動く物質アクティブマターによるクリーンな物質社会

角五 彰 准教授 KAKUGO Akira/物質化学研究室

未来を託せる物質アクティブマター

金属やセラミックのようなハードマターや生体分子や高分子のようなソフトマターとも違う、アクティブマターという新しい物質の可能性を探っています。アクティブマターとは化学エネルギーなどを運動エネルギーに変換する機構を物質内に持っている物質のことで、自律的に運動を発現することができるという点で既存の物質系とは一線を画しています。

私たちは、アクティブマターの科学を通じて、現在、我々が直面しているエネルギー問題や医療問題を解決することを目指しています。

今日に至るまで内燃機関や電動機など様々な動力システムが開発されてきました。しかし、取り巻く環境変化や科学技術の進歩に伴いエネルギー供給や変換システムの刷新に期待が寄せられています。このような背景のなか、私たちは、化学的なエネルギーを運動エネルギーへと直接変換する生体由来のアクティブマター(分子モーター)に着目し、その物性や動作原理、動態挙動の解明に取り組んできました。

最近では、分子モーターの高いエネルギー変換効率や優れた出力特性を活用して環境にやさしい動力システムの開発や分子モーターを動力源とした分子サイズのロボット(=分子ロボット)の開発にも力を入れています。

開発した分子ロボットは、私たちの細胞のなかで物質輸送に使われているモータータンパク質系と遺伝情報を記録する核酸(DNA)を組み合わせて合成されています。ロボットの3要素にあてはめると、前者が駆動系、後者が知能・制御系に相当します。さらに光を感知する色素を、センサーとして核酸に人工的に組み込みました。これにより、化学的信号だけなく光などの物理的信号を感知し、自発的に群れたり別れたりする分子ロボットが出来上がります。将来的には、体の中などで働くナノマシンとしての応用が期待されています。

個ではできないことを「群れ」が可能にする

アクティブマターを活用していく際に特に私が大切にしているコンセプトが「群れ」です。アリや魚、鳥などは群れることで、一個体ではできないようなことができるようになる。そういった1+1が2じゃなくて、100とか1000になるような機能を「創発機能」と言いますが、そういう機能を物質の中に取り込んでいきたいと考えています。

しかし、「群れ」と言っても、個体と個体との情報交換という高次元な機構が必要になってきますから、本当に難しくなっていきます。そのため、私たちのように実際に合成して実験で調べる方法と、コンピューターを使って数理的にシミュレーションするという分野融合が鍵になってきます。実際に私達が群れを再現できたものを数理の研究者とディスカッションしたことで、簡単な群れの運動には3つの要素、引力と斥力と方向の調整があれば良いということがわかってきました。

ある程度近くにいようとする引力、ぶつからないようにする斥力、そして同じ方向を向こうとする方向の調整の3つの要素があれば、魚や鳥のような動きが再現できます。

では、実際に私たちはどんな実験をしているかと言うと、アクティブマター(=分子モーター)を大腸菌に合成させるところから始まります。合成された分子モーターを単離し、次にDNAという物質を混ぜ反応させる。すると群れが発現してくるのでこれを高倍率の蛍光顕微鏡で観察する、といった高校生から見たら化学の実験とは思えないような物質や機材などを使って研究を進めています。現在では、群れの研究で得られた知見をもとに、集団で仕事をすることができるマイクロサイズのロボット(=分子群ロボット)の開発も進めています。

分子群ロボットの動力源となる分子モーターを大腸菌に作らせる装置
合成した分子ロボットが群れる様子を蛍光顕微鏡で確認

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理学全体に言えることですが、生物、物理、数学、化学の垣根なく、さらに工学や医学との融合的な研究がイノベーションにつながっていますから、学生のみなさんには多くの分野の知識を学んで、柔軟な発想力を持ってほしいと思っています。そして、個人ではできないような研究もチームという「群れ」によって実現し、少しでも早く環境負荷の少ない社会にしていきましょう。